胡蝶蘭の宿
今後も本作を宜しくお願い致します。
ハンターギルドを出たあたし達はリーゼさんとミリナさんの案内で今日の宿ファレノプシスへと案内(そのついでにリッサの町の簡単な案内も)して貰い、陽射しが茜色になる頃に目的地であるファレノプシスの近くに到着した。
(うわ……これは中々)
ファレノプシスの外見はパステルカラーでメルヘンチックなお城っぽい外見(日本的な感覚だと若干ラブホッぽくも感じられてしまった)で、それを目にしたあたしが少し反応に困って傍らの蓮華が嬉しそうに微笑みながら口を開いた。
「リリカ様、とても可愛いらしい宿ですね」
「ええ、とても素敵な宿ですわ」
(そうだよね、ここは21世紀の日本じゃないんだよね、あたしも可愛い物は好きだし、もっと素直になった方が良いよね)
蓮華に続いて一美もとても嬉しそうに言葉を発し、2人の素直な感想を聞いたあたしが内心でそう自分に言い聞かせていると、信姫が鼻の頭を軽く掻きながら口を開いた。
「確かに可愛いくていい宿だな……俺には、似合わなそうだけど」
信姫の言葉の後半は小さくそして残念そうな口調で、それを聞いたあたしは信姫の傍らへと移動して声をかけた。
「大丈夫だよ、信姫」
「……お、お嬢?」
あたしに声をかけられた信姫は戸惑いの表情を浮かべながら声をあげ、あたしは笑顔で頷いてから言葉を続けた。
「……信姫にも似合ってるよ、だって信姫もとっても可愛いから」
「……っ」
あたしの言葉を受けた信姫は一瞬絶句してしまい、その後に頬を赤らめさせて俯きながら口を開いた。
「……か、からかうなよ、お嬢」
真っ赤な顔で俯いたまま恥ずかしそうに呟く信姫の姿は何時もの信姫からは想像出来ない姿で、その姿を目にしたあたしは思わずドキッとしながら言葉を重ねた。
「……からかってなんか無いよ信姫、信姫はとっても凛々しくてカッコイイけどそれと同じくらいとっても可愛いよ、だからこの宿もとっても信姫に似合ってるよ」
あたしはそう声をかけながら俯いている信姫に優しく笑いかけ、信姫は暫く真っ赤な顔で俯いてからポツリと呟いた。
「……俺よりもお嬢の方が何倍も可愛いし、カッコイイぜ」
「……し、信姫」
信姫の思わぬ発言を受けたあたしは自分の頬が熱くなるのを自覚しながら声をあげ、それを聞いた信姫は顔を上げると頬を赤らめたままあどけない笑顔と共に言葉を続けた。
「……ありがとなお嬢、お嬢に仕えられて、嬉しいぜ」
「……う、うん、ありがとね信姫」
信姫の滑らかな言葉とあどけない笑みを受けたあたしは頬を火照らせたままそれに応じ、その後にここまで案内してくれたリーゼさんとミリナさんに視線を向けて口を開いた。
「ありがとうございました、リーゼさん、ミリナさん」
あたしがそう言いながら頭を下げるとリーゼが穏やか表情で頷き、その隣にいたミリナさんも同じ様に頷いてから口を開いた。
「気に入ってくれたみたいで嬉しいよ、それじゃあ私達は家に帰るわね、これから頑張ってね」
ミリナさんがそうあたし達に激励の言葉をかけながら手を振るとリーゼさんも笑顔で手を振り、それを目にしたあたし達が深々と一礼する事で応じると2人は小さく頷き合ってから歩き始めた。
あたし達は2人の姿が見えなくなるまでその背中を見送り、それからあたしは笑いながら蓮華達に声をかけた。
「それじゃあ行くよ皆」
あたしの言葉を受けた蓮華達は頷く事でそれに応じ、あたしはそれを確認してから蓮華達と共にファレノプシスへと向かった。
ドアを開けたあたし達が中へと入ってみると、そこは受付が併設されたホールで魔法のランプみたいな形状の照明器具に灯された穏やかな光(たぶん魔法の光だと思う)と玄関の所に多かれた大きな鉢に植えられた艶やかな胡蝶蘭があたし達を出迎えてくれた。
「へえ、凄いね」
「ええ、この宿の名に相応しい見事なものですわ」
胡蝶蘭を目にしたあたしが感嘆の声をあげると一美が相槌を打ち、あたしが頷く事で応じていると蓮華が宿の外観に相応しい可愛らしい内装を見ながら声をかけてきた。
「素敵な宿ですね、リリカ様」
「うん、そうだね」
あたしは蓮華の嬉しそうな弾んだ声に頬を緩めながら相槌を打ち、その後に蓮華の隣に立つ信姫に声をかけた。
「とっても素敵な宿で良かったね信姫」
「……ああ、そうだな、俺も気に入ったぜ、お嬢」
あたしに声をかけられた信姫は少し恥ずかしげにはにかみながらも嬉しそうに返答してくれて、あたしは笑顔で頷いた後に皆を促して受付へと移動した。
「いらっしゃいませ、お泊まりでしょうか?」
あたし達が受付の前に到着すると、喫茶店のウェイトレスさんみたいな服装をした女性の受付係さんが丁寧に一礼しながら問いかけの言葉を発し、あたしは大きく頷いた後に口を開いた。
「はい、4名一緒に泊まりたいのですが大丈夫ですか?」
「はい、大丈夫です4名様の御部屋ですと8千ヴェールになりますが宜しいでしょうか?」
あたしの返答と質問を受けた受付係さんの答えを聞いたあたしは頷く事で応じ、受付係さんは笑顔で言葉を続けて来た。
「御部屋のベッドについてですが1名様用のベッドの御部屋と4名様用のベッドの御部屋の2種類ございますがどちらの御部屋になさいますか?」
「えっと、どうしようか?」
「「4名様用のベッドの部屋で」」
受付係さんの言葉を受けたあたしは蓮華達に視線を向けながら質問してみると蓮華達は即座に希望を告げ、それを聞いた受付係さんは笑顔で頷くと鍵を取り出しながら言葉を続けた。
「こちらが御部屋の鍵になります、別料金で御食事もお付けしておりまして御一人様一食につき250ヴェールとなっておりますが如何なさいますか?」
「あっお願いします、今夜の夕食と明日の朝食で」
受付係さんの言葉を受けたあたしはそう答えながら宿泊料と2食分の食費の合計である1万ヴェールを支払い、受付係さんがそれを受け取っていると制服姿のお姉さんが一人あたし達の所に近付いて来た。
「確かに御受取り致しました、ただいまより御部屋に御案内させて頂きますので御食事までごゆっくりおくつろぎ下さいませ、お嬢様方」
受付係さんはそう言うと制服姿のお姉さんと一緒に丁寧に一礼し、その後に受付係さんから鍵を受け取ったお姉さんが笑顔であたし達に向けて口を開いた。
「いらっしゃいませお嬢様方、私は客室係のクラリスと申します、ただいまより皆様を御部屋に御案内させて頂きます」
お姉さん、クラリスさんは笑顔でそう言ってくれ、それを受けたあたし達が自己紹介をすると笑顔で頷きながらあたし達を部屋へと案内してくれた。
「とっても素敵な雰囲気の宿ですね」
部屋に案内されているあたしは可愛らしい雰囲気の内装についての感想をクラリスさんに伝え、クラリスさんは笑顔で頷きながら口を開いた。
「ええ、私もそう思います、ここに勤め初めて間もないのですがとても素敵な宿だと思っております」
そう言うクラリスさんだったけどその物腰は勤め始めたばかりと言うにしては落ち着いて洗練されている様に感じられ、あたしと同じ様な思いにかられたらしい一美が小さく首を傾げながら口を開いた。
「勤め始めて間もないとの事ですが、それにしては随分と洗練された物腰の様に思いますわ」
「ありがとうございます、一美様、こうして働くのは初めてですがそれまではさる御家にて侍女として御勤めさせて頂いておりましたので、そう言って頂けたのはその賜ですね」
(さる御家って、もしかしてオストブルク公爵家)
クラリスさんの言葉を聞いていたあたしはその言葉の中にあった一句に驚いていると一美があたしに伺う様な視線を向け、それに気付いたあたしが暫し考えた後に小さく頭を振ると微かに頷いてから口を開いた。
「そうだったのですわね、道理で洗練された物腰に感じた筈ですわ」
「ありがとうございます一美様、そう言って頂けて嬉しいです」
一美の言葉を受けたクラリスさんが笑顔で応じている間にあたし達は目的地の部屋の前に到着し、それを確認したクラリスさんは立ち止まると典雅な動作であたし達に一礼してから口を開いた。
「それでは御食事の時間になりましたら御連絡させて頂きます、それまでおくつろぎ下さいませ」
クラリスさんはそう言いいながらあたしに鍵を渡し、それを受け取ったあたしが笑顔で御礼を言うと穏やかな笑顔で一礼した後に歩み去って行った。
「それじゃあ部屋に入るよ、皆」
クラリスさんを見送ったあたしは蓮華達に声をかけながら鍵を開け、それからドアを開けて蓮華達と一緒に部屋へと入った。
その部屋には大きなベッドと応接セットが置かれた可愛らしい雰囲気の部屋で小さいけれど浴室もついている素敵な部屋で、その様子を目にした蓮華が嬉しそうな笑顔と共にあたしに声をかけてきた。
「リリカ様、とても素晴らしい部屋ですね」
「うん、そうだね」
蓮華の笑顔と弾んだ言葉を受けたあたしは同じ様な笑顔と言葉で応じ、それからあたし達はとても可愛らしい部屋の中で各々がくつろぎ始めた。
初めての町リッサでの初めての夜を過ごすあたし達、あたし達が夜を過ごす宿はとっても可愛らしい雰囲気に満たされた胡蝶蘭の宿……




