第1章 事故
これは、僕のごく普通の学校生活から生まれた
悲劇の物語である。
☆主人公目線
家族と水族館に行った、帰りの車内。
僕たちを乗せたミニバンが高速道路を走っている。
「和真は、本当に魚や海獣が好きなんだな」
「本当ねぇ。アシカのショーなんて、人が多くて
席もほとんど開いていなかったのに『遠くでもいいから見よ』って言ってたもんね」
父さんも母さんも、僕を子供だと思ってるんだろうか。
もう中学生だし…まぁ水族館に自分から行きたがる
幼稚な中学生なんていないか…
「仕方ないじゃん」
僕の方を見て笑う母さんに適当に言い返し、窓の外を眺める。
「明日から部活、頑張ってね」
「わかってるよ…」
適当な言葉でも母さんは喜んでくれる。
何だか不思議な気持ちになった。
少し走ると、ちょうど信号が変わる青に変わる。
そして母さんが前を向いた、その時だった。
僕の目に飛び込んできたのは、横転するトラックと、飛び散るガラスの破片。
色々な所から発せられた叫び声は、僕を暗闇に誘い込むには大きすぎるものだった、と思う。
「…ま」
「かずま」
「和真!」
「うわぁ!?」
見知らぬ天井。
「和真…良かった、目が覚めたのか!」
「貴方、誰?」
☆主人公の兄目線
「貴方、誰?」
嘘だろ?
「ここはどこですか?僕は、誰なんですか…?もしかして僕は…死んだんですか?」
事務所に一本の電話が来た。
「大変です如月さん!!」
「…何?」
マネージャーは酷く慌てて振り向く。
「倒れないで下さいよ?」
「倒れるわけねぇだろ…多分」
「弟さんが、事故にあって意識不明の重体だそうで…!」
「和真和真和真ぁ和真ぁっ!!!和m」
「うるさいですよ」
「…ごめん」
マネージャーに注意されつつ、病院の廊下を走る。
目指すは3階、緊急治療室の隣、302号室。
306…305…304…303…302。
「和真ぁ!!!」 バーン
「他の人の迷惑になりますってば如月さん」
「…ごめん」
ベットの上には、眠っている和真の姿が。
見えているだけでも、頭と左目に包帯が巻かれている。
俺はベットの横の椅子に座る。
「和真?おーい、死んでない…よな?和真?」
しばらく声をかけていると、ドアから医師が入ってくる。
「先生、俺の弟はどうなったんですか!?」
「残念ですがー…」
「…ん」
「和真!?」
いつの間にか、和真は意識を取り戻していた。
「和真…良かった、目が覚めたのか!」
「貴方、誰?」
そして現在に至る。
「残念ですが、完全に記憶を失っています」
嘘だろ?
嘘だと言ってくれよ。
今ままでみたいに『ドッキリ大成功!!』の札をあげてくれよ。
それに、父さんと…母さんは?
「ご両親はー…」
霊安室。
ドラマの撮影で何度も入り、演技して泣いたこの部屋。
だけど、セットなんかより重苦しく、暗い。
部屋の隅に置かれている遺体の身元は、言わずとも
分かるものだった。
「父さん…母さん…」