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四章十節 - 月夜の神域

 外に出ると、そこにはすでに帰り支度を整えた人々が立っていた。


松明(たいまつ)!」


 箒と辰海(たつみ)が集めていた薪で作ったらしいそれを実砂菜(みさな)が自慢げに見せびらかしている。焚火は松明の火種の分以外消されていた。


「では、戻りましょうか」


 空の号令で四本ある松明うち二本に火をともし、枯れ川をたどり始めた。残りの二本は予備として辰海が抱えている。


「で、この梅の枝って――?」


 与羽(よう)は自分の手の中にある紅白の梅のことを空に尋ねた。出発前に空から渡されたものだ。彼は石室に供えたもののほかにも何本か手折っていたらしい。


「あの石室近くに、わたしが『春花の庭』と呼んでいる不思議な場所があるのです。そこではもうじき梅が見ごろでしてね」


「なにそれ?」


 与羽は首を傾げた。


「僕も散策中に見つけたけど、たぶん火山の地熱で冬でも暖かいんだと思う」


「年中あったかかったら梅の花ってこんな時期でも咲くもんなん?」


「それは、わからないけど……」


 少なくとも、あの場所は初春のように暖かくて、草木が芽吹き、梅が咲こうとしていた。


「神の御業ですよ」


 そう納得するのが一番わかりやすいのかもしれない。


 与羽はまだ固いつぼみに鼻を近づけた。梅の匂いがする。本当に不思議だ。


 空を先頭に、一行はできるだけひとかたまりになって川下を目指した。


絡柳(らくりゅう)先輩、怒るかなぁ……」


「まぁ、かなり怒るだろうね。その覚悟があったから古狐(ふるぎつね)を捜しに行ったんだろう?」


 与羽の不安そうな声に大斗(だいと)が答える。


「それは、そうですけど……」


 怖いのか、緊張しているのか、言い訳を考えているのか。与羽の口数は徐々に少なくなった。


 一度松明を交換して、炎を維持しながら歩くこと二刻(四時間)。月主(つきぬし)神殿までは無事に戻ることができた。しかし、問題はここからだ。


「……おっと」


 先頭を歩く空が口の中でつぶやいて足を止めた。彼の視線の先に立っているのは――。


「絡柳先輩……」


 それと天駆(あまがけ)領主の希理(きり)だ。


 与羽は空を抜かし、絡柳に歩み寄った。


「先輩。あの、これ、お土産で……」


「与羽」


 少しでも彼の機嫌を取ろうと、梅の枝を差し出した与羽に絡柳の厳しい声が降り注いだ。


「俺は、絶対に神域に入るなと言ったはずだ」


「はい……。すみませんでした……」


 そう小さくなることしかできない。


「俺が許可したんだよ」


 そんな与羽をかばうように巨体を割り込ませたのは大斗だ。


「わたしが皆様を神域内にお誘いしたのです」


 空も大股に歩み寄ってくる。


「神域の恐ろしさはお前が一番身をもって知っているだろう……?」


「だからこそ、です」


 希理の言葉に空は背筋を伸ばして答えた。


「待ってください。元はと言えば、僕が自分勝手に神域に入ってしまったのが原因です! 与羽やほかの皆さんは何も悪くありません!」


 辰海も声を上げる。


「……止めなかった私も同罪です!」


 お互いをかばい合う面々を見比べて、実砂菜もそう手を挙げた。

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