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一章五節 - 龍姫の提案

「それで? どーしたん? ユリ君。城になんか用?」


 暗鬼は数え年で二十五歳。与羽よりはどう見ても年上なのだが、彼女はそんなこと全く気にせず話しかけてくる。城のお姫様で、身分的にはかなり上なのだから、当たり前といえば当たり前かもしれないが。


「いえ。いつまでも寝ていると体がこわばってしまうので、散歩をと思って――。お城を見るのは初めてなので、よくこのあたりを歩いているのですが、ご迷惑でしたか?」


「いや、全然。私も中州城以外の城は見たことないけど、良い城でしょ?」


 与羽は得意げに石垣の上に見える瓦屋根を指さした。


「はい、とっても」


 暗鬼は与羽に合わせてうなずく。少しお調子者だが、素直で(ぎょ)しやすそうな少女だ。


「なんなら、お城の中をちょっと見ていく?」


「え?」「いいんですか!?」


 辰海と暗鬼の声が被った。


「問題なかろう。朝議はもう終わっとる時間じゃし、官吏たちの邪魔をせんかったら……」


 不安げな声を出した辰海を説得する与羽。


「邪魔なんかしません!」


 暗鬼は目をらんらんと輝かせてみせた。

 辰海はそんな暗鬼と与羽を交互に見比べる。どうやら彼は姫君のお目付役のようだ。


「……ちょっとだけだよ」


「うん!」「ありがとうございます!」


 今度は、与羽と暗鬼の言葉が被った。


 与羽に連れられて堀にかかる橋を渡る。年季の入った門柱にはところどころに焦げ跡が見えた。門の先にあるゆるやかな階段を登り、さらに生垣の間にある門をくぐる。その先は小さな庭で、足元には石が埋められ、右には松と背の低い植木。左はひらけており、さらに広い庭園につながっているようだ。

 正面には玄関。落ち着いた色合いの上質な木が使用され、見た目は質素ながらも立派な門構えだった。


 広い土間で履物を脱ぎ、磨かれた木の廊下を少し歩くと、目の前が開けた。中州城の庭園。広い庭の隅には、追いやられたように天守がひっそりたたずんでいる。

 どう見ても、この庭の主役は柳だった。天守を隠すように植えられた柳は、長い年月ここにいるのだろう、たっぷりと地衣植物に覆われて、神々しくさえ見える。庭の中央部はなにもない。ただし、余分な草一本、小石一個としてなく、手入れが行き届いていた。


「ここがお城の庭で、この奥が謁見の間ね」


 謁見の間では今も仕事をしている官吏がいるのだろう。与羽は唇の前に指を立てて静かにするよう示しながら、ささやき声で紹介してくれた。暗鬼は同じように静粛のしぐさをしてうなずいた。


 謁見の間から離れるために速足で廊下を抜ける。その間も暗鬼は好奇心いっぱいと言った様子で周囲を観察した。

 庭をコの字型に囲んで建物が並び、それぞれが渡殿(わたどの)でつながれている。各部屋は障子やふすまで仕切られ、縁側には板製の雨戸がしつらえてあった。華金でもよく見る書院造りの建築様式だ。


 天守は低いが、城自体が城下町のどこよりも高い位置にあるので、あそこに上がれば町全体が見渡せるだろう。耳を澄ますと、謁見の間で仕事をしているらしき人々の声が聞こえた。内容までは聞き取れなかったが……。


 しばらく進むと、与羽の足取りがゆっくりになった。官吏たちの仕事場を抜けたのだろう。おかげで、暗鬼はより一層城内を確認できるようになった。しかし、あまりおかしな動作はできない。暗鬼の後ろには辰海が無言で従っている。くつろいで安心しきった様子の与羽とは対照的に、彼からは緊張が伝わってきた。まだ正体のわからない暗鬼を警戒している。

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