ペナルティ
妙な空気を気にすることなく晴可先輩は私の前に立った。
にこにこにこ。
なんだ?この機嫌の良さは。
嫌な予感が胸を満たす。
「約束、覚えとる?」
晴可先輩はゆっくりと胸ポケットの花を抜いて、私の目の前に差しだした。
なんだ、これは。
悪い夢か?
まばたきを繰り返しても目の前の状況は変わらなかった。
「えーと。先輩?悪い冗談はよしてください。」
一歩退いて、あくまでも受け取る気がないのを伝える。
しかし晴可先輩は自分の花を私の胸ポケットに差すと、そのまま私の耳元に顔を寄せた。
「ペナルティ発動。雅ちゃんの花、俺にちょうだい。」
さーっと全身から血の気が引く音が聞こえた。
ペナルティ。
ここで使うのか・・・。
「はい?」
と目の前に手を差し出して催促する先輩。
この人は悪魔だ。
「あれ~?雅ちゃんは約束も守れやん人やったかな~。」
う~~っと唸る私に晴可先輩はしれっと言う。
ペナルティ。
これはペナルティだ。
好意は存在しない。
私は自分に言い聞かせて、胸ポケットから自分の赤い花を抜き出した。
悪魔と契約するとこんな目にあうんだろうか。
あれ?私、契約、したんだっけ???
首をひねる私の手からするりと赤い花を抜き取り、晴可先輩は上機嫌でそれに口づけた。
「それでな。」
茫然と見守る私に晴可先輩が言いかけた時、中央で派手な音が鳴り響いた。
「あ、行かな。雅ちゃん、ちょっと待っててな。」
軽やかに身をひるがえし、晴可先輩が去っていく。
あとに残された微妙な空気をどうしてくれる。
「だ、大丈夫?」
真田くんの心配そうな声で我に返った。
居並ぶ実行委員の微妙な顔にいたたまれない気分になる。
「う~。あんまり大丈夫じゃないかも。・・・先に帰らせてもらおうかな。」
待ってて、と言われたような気がするが空耳という事にしよう。
「うん。その方がいいよ。送って行こうか?」
真田くんの気持ちだけありがたく受け取っておこう。
とにかく今は一人になりたかった。