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恋物語  作者: ゆうこ
冬の頃
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クリスマスパーティー

クリスマスソングが流れるホールで、私は激しく後悔をしていた。

私の傍からいなくなった癖に監視を続ける晴可先輩に腹を立て、承諾してしまった幸田くんの申し出。

幸田くんの言う通り、晴可先輩を追いかける事をやめた途端、私の頭は冷えた。

なんてバカなことをしてたんだろう。

冷静になると、いままでしていた事があまりに滑稽で、穴があったら入って二度と出てきたくない。

なぜ、あんなにも晴可先輩に会う事に執着していたのか、自分でもわからなかった。

もう、絶対会えない。

会いたくない。

会わない。

そう誓ったのに。


私は知らず知らずのうちにため息をついていた。

主に私の隣に座る幸田くんのせいで。


「はい。あーん。」

「・・・。」


嫌~な目で見ている私にかまわず、幸田くんはフォークを突き出した。


「美味しいよ?これ。今年の某有名ホテルの新作ケーキなんだって。」


美味しそうですよ?

この頃食欲のなかった私でも食べたいと思うほど、美味しそうなケーキです。

でも私は人に食べさせてもらう趣味はないんですが・・・。


「あのむぐっ・・・。」


フォークを渡してくれるように頼もうと、口を開いたらケーキを突っ込まれました。


「ね?美味しいでしょ?」


天使の微笑みの向こうに悪魔の尻尾が見えるのは気のせいでしょうか。

やっとケーキを飲み込んで、文句を言おうとしたら、すかさず次のケーキを突っ込まれた。


「これはね~、某有名レストランの新作。どう?」


美味しいです。

でも感想を口にするのはやめておこう。


やっぱりやめておく、と言う私を無理矢理引っぱりだした幸田くんは、なんと堂々と会場のど真ん中に席をとった。

それはどういう事かと言うと。


「晴可さま~。一緒に踊っていただけませんか~。」


そう、つまり、彼を筆頭に生徒会の面々が近くにいるという事で・・・。

頭痛がする。

なんで幸田くんは私にこんな拷問を強いるのか。

いや、待てよ。

確か幸田くんは罠をしかけると言ったんだっけ。

それに同意した私は、相当いかれてたんだと思う・・・。


何が悲しくて自分を振った相手と他の女の子がじゃれてる姿を見てなきゃならないんだろう。

胸が苦しくて、美味しいはずのケーキも砂を噛んでいるようだ。


私が傍にいた頃は遠慮していた女の子たちも、この日ばかりは遠慮の欠片もなく晴可先輩にまとわりついている。

私が幸田くんと会場に来た事で、晴可先輩と私が完全に別れた事が証明されたから。

これって自業自得なんだろうけど。

隣の女子は何気に胸を擦りつけてない!?

う~~~~。

私は意識を逸らそうと必死に神への祈りを捧げる。

私が仏教徒だったら、念仏を唱えているはずだ。


「朝霧ちゃん?」


無我の境地に達しようとする私を、幸田くんはあっさり現実に引き戻した。


「ねえねえ、今日から雅って呼んでもいい?」

「は?」

「だって、クリスマスのパートナーを受けてくれたって事は、僕たち公認のカップルってことでしょ?」

「え?だって・・・。」


話がちがう。

幸田くんは協力してくれると言ったのだ。

決して付き合おうとは言ってない。


反論しようとしたが手をグイっと引っぱられ、私は立ちあがった。


「じゃ、一曲踊ろうか。雅?」


そう言われて周りを見回すと、いつの間にか会場にはしっとりしたバラードが流れ、カップルたちがぴったり寄り添って踊っていた。


「いやいやいや。無理だって。」

「大丈夫だよ。みんな、ぴったりくっついて揺れてるだけだから。」


余計無理です。


「ごめん。私もう・・・。」


協力してもらわなくてもいいから、と言おうとした時。

視界の隅に知らない女の子に腕を絡められ、立ちあがる晴可先輩が映った。

もつれ合うほどぴったりと体を寄せて二人は歩いていく。




心臓が止まるかと思った。



体と思考が固まる。





「雅ちゃん?」


幸田くんの声が遠くに聞こえる。

私はゆるゆると頭を振った。


「ごめん。トイレ行ってくる。」

「わかった。じゃ、ダンスはまたあとでね。」


にっこり微笑む幸田くんの手が離れる。

なんて情けないんだろう。

もう、いいって思ったのに。

もう忘れようって思ったのに。

なんでこんなに苦しくなるんだろう。


私はトイレを通り過ぎて、会場の外に出た。



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