表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋物語  作者: ゆうこ
冬の頃
68/77

生徒会便り~会長編

生徒会長視点でのお話です。

朝霧が乱暴に生徒会室の扉を閉めて出て行った数分後。

天井裏に潜んでいた晴可が姿を現した。

この2週間ほどこの調子だ。

クリスマスパーティーも近いというのに仕事にならない。


「いい加減に話し合ったらどうだ?」


制服の埃を払う晴可に苦言を呈するが、奴はへらりとした笑みを浮かべるのみ。


「雅ちゃん、今日も可愛かったな~。」


どこがだ。

怒り狂っていたぞ。

朝霧も朝霧だ。

放っておけば、晴可は伴侶恋しさで我慢できなくなるはずなのに。


晴可が朝霧から離れる、と言いだした時、俺はそれほど心配していなかった。

朝霧は晴可の伴侶だ。

晴可が離れて正気でいられるはずがない。

俺の予想ではプライドの高い朝霧は、平静を保つはずだった。

そのうち、朝霧に会えなくなった晴可が自分を抑えられなくなって暴走する。

その時に多少ゴタゴタするだろうが、いつもの調子で晴可が強引に運べば、一件落着。

そう踏んでいたのに。


朝霧は晴可を追いかけだした。

これまでの彼女からは想像できないような行動力で。

それが事態を長引かせるとも知らずに。


晴可のにやけた顔から察するに、追いかけ続けた彼女に追いかけられるのが、よっぽどうれしかったと見える。


「そのうち、朝霧に寝首をかかれるぞ。」

「ん~?それも本望かな。」


警告するが、晴可はやんわりと笑っただけだった。


ふと、晴可が窓の外に視線を移す。

その先には寮に帰る朝霧の姿。

朝霧から離れると言うが、その監視の手は緩める気がないらしい。

やっかいな男だ。


「ん?」


朝霧が足を止めた。

その隣に立つのは、睦月?

晴可の背中から不穏な空気が立ち上る。

しばらく会話を交わす二人。

いきなり睦月が朝霧を抱き寄せた。

まずいだろう、これは。

そう思った時、晴可の右手が動いていた。


「・・・お前、そこまで大事ならちゃんと手の中に入れておいたらどうだ。」


俺は呆れて言う。

理由も話してもらえず、宙ぶらりんな朝霧が不憫で仕方ない。

いい加減、はっきりさせてやらないと、本気で愛想を尽かされるだろうに。


「なあ、桐生。お前、大事なものってあるか?」


窓の向こうに視線を飛ばしたまま、晴可が問うた。


「大事なもの?女という意味ならない。」


きっぱり言うと、晴可は曖昧な笑みを浮かべ、俺を見た。


「いや、別に女って限定しやんでも。」


うーん、と俺は考える。

大事なもの。

頭に浮かぶのは自分自身。

そしてありふれた答えだが家族か、そう伝える。


「俺な、なんにも大事なものなんかなかった。自分自身も、別にいつ死んでもいいって思ってた。家族もおんなじや。死ぬ時は死ぬ。運命やったら、仕方ないやんって考えてた。」


晴可は窓枠にもたれて、うつむいた。


「そやけど、雅ちゃんが死ぬかも知れやんと思った時、無茶苦茶後悔したんや。俺と知りあわへんだら、俺と付き合わへんだら、雅ちゃんは命の心配なんかしやんでよかったのに。」

「晴可。それはお前のせいじゃ・・・。」

「俺のせいや。」

「晴可。」

「でも時間は巻き戻らん。過ぎた事をあれこれ言っても仕方ない。俺が雅ちゃんのために出来るのはこんな事くらいなんよ。」


なんてバカな奴だ。

愚かで、頑固で、でも朝霧の事を誰よりも大事にしている大馬鹿野郎がここにいた。


「だが、朝霧はそんな事、望んでいないだろう。」

「雅ちゃんは最初から、何も望んでなかった。望んだのは俺だけや。」


自嘲の笑みを浮かべる晴可に、それ以上かける言葉を、俺は持っていなかった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ