生徒会便り~会長編
生徒会長視点でのお話です。
朝霧が乱暴に生徒会室の扉を閉めて出て行った数分後。
天井裏に潜んでいた晴可が姿を現した。
この2週間ほどこの調子だ。
クリスマスパーティーも近いというのに仕事にならない。
「いい加減に話し合ったらどうだ?」
制服の埃を払う晴可に苦言を呈するが、奴はへらりとした笑みを浮かべるのみ。
「雅ちゃん、今日も可愛かったな~。」
どこがだ。
怒り狂っていたぞ。
朝霧も朝霧だ。
放っておけば、晴可は伴侶恋しさで我慢できなくなるはずなのに。
晴可が朝霧から離れる、と言いだした時、俺はそれほど心配していなかった。
朝霧は晴可の伴侶だ。
晴可が離れて正気でいられるはずがない。
俺の予想ではプライドの高い朝霧は、平静を保つはずだった。
そのうち、朝霧に会えなくなった晴可が自分を抑えられなくなって暴走する。
その時に多少ゴタゴタするだろうが、いつもの調子で晴可が強引に運べば、一件落着。
そう踏んでいたのに。
朝霧は晴可を追いかけだした。
これまでの彼女からは想像できないような行動力で。
それが事態を長引かせるとも知らずに。
晴可のにやけた顔から察するに、追いかけ続けた彼女に追いかけられるのが、よっぽどうれしかったと見える。
「そのうち、朝霧に寝首をかかれるぞ。」
「ん~?それも本望かな。」
警告するが、晴可はやんわりと笑っただけだった。
ふと、晴可が窓の外に視線を移す。
その先には寮に帰る朝霧の姿。
朝霧から離れると言うが、その監視の手は緩める気がないらしい。
やっかいな男だ。
「ん?」
朝霧が足を止めた。
その隣に立つのは、睦月?
晴可の背中から不穏な空気が立ち上る。
しばらく会話を交わす二人。
いきなり睦月が朝霧を抱き寄せた。
まずいだろう、これは。
そう思った時、晴可の右手が動いていた。
「・・・お前、そこまで大事ならちゃんと手の中に入れておいたらどうだ。」
俺は呆れて言う。
理由も話してもらえず、宙ぶらりんな朝霧が不憫で仕方ない。
いい加減、はっきりさせてやらないと、本気で愛想を尽かされるだろうに。
「なあ、桐生。お前、大事なものってあるか?」
窓の向こうに視線を飛ばしたまま、晴可が問うた。
「大事なもの?女という意味ならない。」
きっぱり言うと、晴可は曖昧な笑みを浮かべ、俺を見た。
「いや、別に女って限定しやんでも。」
うーん、と俺は考える。
大事なもの。
頭に浮かぶのは自分自身。
そしてありふれた答えだが家族か、そう伝える。
「俺な、なんにも大事なものなんかなかった。自分自身も、別にいつ死んでもいいって思ってた。家族もおんなじや。死ぬ時は死ぬ。運命やったら、仕方ないやんって考えてた。」
晴可は窓枠にもたれて、うつむいた。
「そやけど、雅ちゃんが死ぬかも知れやんと思った時、無茶苦茶後悔したんや。俺と知りあわへんだら、俺と付き合わへんだら、雅ちゃんは命の心配なんかしやんでよかったのに。」
「晴可。それはお前のせいじゃ・・・。」
「俺のせいや。」
「晴可。」
「でも時間は巻き戻らん。過ぎた事をあれこれ言っても仕方ない。俺が雅ちゃんのために出来るのはこんな事くらいなんよ。」
なんてバカな奴だ。
愚かで、頑固で、でも朝霧の事を誰よりも大事にしている大馬鹿野郎がここにいた。
「だが、朝霧はそんな事、望んでいないだろう。」
「雅ちゃんは最初から、何も望んでなかった。望んだのは俺だけや。」
自嘲の笑みを浮かべる晴可に、それ以上かける言葉を、俺は持っていなかった。