追うもの追われる者
がらりっ。
勢いよく開けた扉の向こうには、やや呆れた顔の会長の顔のみ。
チッと舌打ちをすると、私は生徒会室に足を踏み入れた。
「おいおい。無断で入室するな。」
呆れ顔の会長は無視して、私は室内をぐるりと見回す。
「晴可先輩は?」
「いない。見りゃわかるだろ。」
「隠してませんか?」
じろりと会長を睨む。
こいつらはグルかも知れない。
「なんかお前、日に日に凶悪化してないか?」
「そうですか?」
会長はため息をついて、私にソファーを勧めた。
「なあ、晴可に会ってどうしたいんだ?」
私の正面に腰を下ろした会長が私の顔を覗きこんだ。
「・・・会長には関係ありません。」
「そりゃそうだけど・・・。」
会長はこほんと咳払いをした。
「もう、晴可を追い回すのはやめろ。そんな事をする必要はない。晴可はちょっと頭を冷やせばお前の元に帰ってくる。あいつがお前から離れていられるはずないんだから。」
「はあ?」
どういう意味だ。
それじゃあ私が晴可先輩に復縁を迫ってるみたいじゃない。
「なにか勘違いしてませんか?」
「ん?お前は晴可に会いたいんだろう?」
「そこじゃありません。なんで私が晴可先輩が頭を冷やして帰ってくるのを待ってなきゃいけないんですか?」
「え?」
「冗談じゃありません。あんな勝手な人を、待てる訳ないでしょう?」
「あれ?だったらなんで追い回してるんだ?」
「・・・文句を言うためです。」
「・・・。」
「私の日常を見事に壊してくれて、問題が起こったから、はいさようならって、なんなんですか、それ。晴可先輩がいなくなったって、私の周りが静かになる訳ないでしょう!?」
事実、この頃私に突き刺さる視線は、やっぱり晴可先輩に飽きられて捨てられた可哀そうな子を見るものだ。
しかも遠巻きにひそひそやられて、私の精神はダメージ大だ。
一言文句を言ったって罰は当たらないはず。
「それはそうだが、あのな?晴可はお前の事が嫌いになった訳じゃないんだぞ?」
「どう信じろって言うんですか。」
「いや、だから・・・。とにかく、あいつの事は追うな。放っておいたら・・・。」
ぎろりと睨むと会長は黙った。
「戻ってきてほしい訳ではないと言いましたよね?」
「う・・。ああ。」
「じゃあ、お邪魔しました。」
私は足音も荒く、生徒会室を後にした。
絶対晴可先輩は近くにいる。
気配を感じるのに姿を見せない。
それが私を苛立たせていた。
昇降口で靴を履きかえようと靴箱の扉を開けると、中に詰め込まれていたらしい封筒がドサドサッと足元に落ちた。
「・・・。」
ここ数日、繰り返された光景。
私は近くにあるゴミ箱を引っぱってきてそれらを無造作に突っ込む。
初日には確認した中身も、もう差出人すら確認する気力もない。
「はあ・・・。」
私はため息をつき、歩き出した。
校門を出ようとした時、そこに意外な人が立っていた。
「幸田くん?」
「毎日ご苦労だね、朝霧ちゃん。」
門扉にもたれていた幸田くんが体を起こす。
という事は私を待っていた?
「クリスマスパーティーのお誘い、受けるの?」
「・・・まさか。」
今週末に行われるクリスマスパーティー。
交流会は学校行事で全員出席が義務づけられているが、これは自由出席だ。
だれでも出席できるが、カップルでの出席率が高い。
この学園は男子の方が多いので、この時期、男子はパートナー探しに必死になっている。
さっき靴箱に入れられていたのはその申し込みだ。
「あのさ、協力してあげようか?」
幸田くんが天使の微笑みを浮かべた。
「協力?」
「晴可だよ。追いかけても無駄だよ?」
「・・・。」
「追いかけるのをやめて、罠を仕掛ける。」
「罠?」
「そう。だから僕とクリスマス一緒に行かない?」
幸田くんの微笑みが一気に得体の知れないものになった。
そういうのはあまり私の得意分野じゃない。
断ろう、と口を開きかけた時。
いつの間にか距離を詰めていた幸田くんの手が私の腰を引き寄せていた。
「!?」
幸田くんは私とそれほど身長差がなく、男子にしては華奢な体形だ。
それなのに、引き寄せられた腕は意外なほど力強い。
幸田くんはすいっと私の耳元に口を寄せた。
「このまま監視だけされてるの?晴可のいいようにされて、悔しくない?」
その時、幸田くんが私の腰に回した手と反対の手を顔のあたりにかざした。
パシンという乾いた音がその手の中に吸い込まれる。
にっこり笑った幸田くんが、私の前でその手を開いた。
「消しゴム?」
幸田くんの手のひらに乗っていたのは、直径1センチほどの小さな消しゴムの欠片だった。
私はそれが飛んで来たであろう方向を見る。
ここからは遠すぎて見えないが、校舎のどこからか投げられたのだろう。
おそらく3階の生徒会室。
こんな事が最近よくあった。
人気のない場所でクリスマスの話をされているとどこからともなく何かが飛んできて、話を中断される。
それから辺りを見回した男子はあたふたと逃げて行くのだ。
「ほんと、勝手な奴だよね。」
幸田くんが苦笑した。
やっぱり晴可先輩なのか。
「わかった。晴可先輩を追いかけるのをやめて、幸田くんとクリスマスパーティーに行けばいいのね?」
私が言うと、幸田くんは満面の笑みを浮かべた。




