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恋物語  作者: ゆうこ
春の頃
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交流会前夜

花を台無しにした上にさっさと逃げ出すなんて、さぞやひんしゅくを買っているに違いない。

会場の微妙な空気を思い出す。

けれど星宮さんにあの続きを言わせる訳にはいかなかった。

私は無言で星宮さんの小さな手を引く。

案の定、彼女の手は異様に熱かった。


寮に戻るとすぐに食堂に入り、食欲がなさそうなのを無理に温かいスープを飲ませる。

手元にあったビタミン剤を飲ませてベッドに放り込むとあっという間に寝息を立て始めた。


疲れていたんだろうな。


人一倍小柄で華奢な星宮さんは人一倍世話焼きで、会場でもなかなかじっとしていなかった。

それが今日は一転、静かに花作りに精を出していた。

最後の最後で無理をして台無しにしてたけど・・。



星宮さんが深い眠りについたのを見届けると、私はそっと部屋を抜け出した。

目指すのは談話室。

時計の針は10時を指している。

さすがにこの時間に部屋の外をうろついている人はいない。

談話室の片隅で私は持ってきた荷物を広げた。

良かった。

なんとか材料は足りそうだ。


あの時黙っていたら、星宮さんは自分がダメにした花を作ると言いだしていただろう。

私と星宮さんで協力したら2,3時間で出来ただろうか。

でも今日の星宮さんにそれはきつそうだった。

私が一人ですると言えば彼女は必ず私もと言っただろう。

天然のくせして責任感だけは人並み以上なのだ。


つらつらと考えながら手を動かしているとあっという間に時間がたつ。

不意に寒さが足元から這い上がってきてくしゃみがでた。

時計を見ると12時を回ったところだった。

5月とはいえさすがに冷えてきた。

花作りの手を休め、うーんと伸びをする。

出来たのは20個あまり。

ちょっとペースが落ちてきたか。


「がんばりすぎたら、いかんで。」


背後から思いがけない声が聞こえて、私は固まった。


「はい、温かいココア。コーヒーがよかったらこっちにあるで。」


恐る恐る振り返ると紙コップを持った晴可先輩が立っていた。



「えーと。なんで女子寮にいるんですか?」


ありがたくココアをいただきながら私は一番の疑問を口にする。

男子寮と女子寮の唯一の接点は食堂。

それは9時には鍵をかけられ、出入りは一切出来なくなる。


「まあ、な。さっきの雅ちゃんが気になったからかな。雅ちゃんらしくなかったって言うか。」


見当違いの答えを出して、晴可先輩は私の前に並んだ白い花を一輪つまみあげた。


「みんなでしたら早かったやろ?」


私は黙ってココアを飲む。

温かさと糖分が体をじんわりと駆け巡る。


「姫ちゃんは大丈夫?」

「・・・。」


この人はどこまで知っているんだろう。

私は黙って晴可先輩を見つめた。


「ほんま雅ちゃんは友達思いやな。姫ちゃんのために悪役まで引き受けて。」


私はため息をついた。

美化するのはやめてほしい。


「ちがいます。大体星宮さんは友達じゃありません。単なる級友です。」


私の言葉に晴可先輩の目が少し大きくなる。


「なんで?仲良しやん?」

「あれは星宮さんが知り合いのいない学園で、たまたまルームメイトになった私に懐いただけです。もう少ししたら彼女も自分に合った友達を作ると思いますよ。」

「・・・そんなに一人が好きなん?」

「友達に意義を感じないだけです。」


私は飲み終えたコップを机に置いて、花作りを再開した。


「楽しいやん。友達といると。」


先輩はまだ友達談義をやめるつもりはないらしい。


「一人でいても楽しさは見つけられますし、友達といても楽しい事ばかりではないと思います。」

「ふーん。そうかな。確かに意見が合わんとぶつかる時もあるやろけど、それを乗り越えるのに友達の意義があるんとちがう?」


正論だ。


「・・他人に振り回されたくないんです。私がどんな状況にあっても、私は私でありたい。でも他人は私を勝手に決め付ける。先輩が友達のいない私を可哀そうな子だと決めつけるように。」


ちょっときつく言いすぎたか。

でも私の中に踏み込んできたのは晴可先輩だ。

決して誰も入れないと決めた心のエリアに。


「別に雅ちゃんが可哀そうな子やなんて思ってはないけど。なんで深い情を持ってるのに隠すんかなって思うだけ。」

「この状況が私にとって迷惑だからです。星宮さんががんばりすぎて倒れるのも迷惑だし、くしゃくしゃの花を実行委員や生徒会役員につけさせてブーイングを受けるのも迷惑です。」

「そ~なんや~?」


私の隣に腰掛けた先輩は頬杖をついてニヤニヤしていた。

全然わかってない顔だ。

何を言っても無駄らしいので花作りに没頭する。


「できた。」


最後の花を仕上げて時計を見たら夜中の2時だった。

意外に早くできたようだ。


「お疲れ~。」


声と同時に大きな手で頭をポンポンと叩かれびっくりする。


「貴島先輩!まだいたんですか!?」


振り向いたすぐそこに先輩の顔があった。

まん丸に見開かれた眼鏡の奥の目がにや~と細められるのを唖然と見ていると、


「ペナルティ10」


先輩がうれしそうに言った。


両手で口を押さえ絶句する私の横で先輩は上機嫌で笑っていた。


「あ~、やっとこの日が来たか~。もうダメかと思ったわ~。油断したな、雅ちゃん。」

にこにこにこ。

「あ、これは俺が会場に運んでおくわ。じゃあ、早く寝るんやで。」


何を言われるかびくびくしていたのに、晴可先輩は出来上がった花を持ってあっさり帰って行った。

大きなため息が口からもれる。

だって仕方ないよ。

頭ポンポンだよ!?

それはなんだかとても懐かしい感じがした。




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