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恋物語  作者: ゆうこ
冬の頃
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苦い再会

「そろそろ閉場やな。行かなあかんわ。」


晴可先輩が顔を上げた。

時計は2時50分を指している。

そろそろ一般客の帰る時間だ。


「雅ちゃん、大丈夫?」


私は奥の部屋で手早く制服に着替えた。


「ここで休んでてもいいんやで?」


やたら心配そうに尋ねる晴可先輩に首をかしげる。


「あ、いや。なんかふらふらしてるから・・・。」


ほんの少し顔を赤らめた先輩が視線を彷徨わせる。

ばれてたか・・・。

頬がさっと熱くなる。

晴可先輩にキスされてから、なぜか足に力が入らないのだ。


「だ、大丈夫です・・・。」


心配そうな晴可先輩に腕を支えてもらい、私たちはゆっくり階段を下りていった。


「後夜祭は一緒に過ごそな?」


一般客が帰れば、生徒会の仕事はだいぶん楽になる。

そういえば準備期間の一ヶ月間、以前ほど頻繁に私の周りに出没していなかったし。


「長かったな~。ほんと、雅ちゃんと一緒におれへんだのが一番きつかったわ~。」


嘆きながらも、でもちょっと補充出来たけど、と耳元で囁かれ、さっと顔が赤くなる。

ちょっとですか?あれで・・・。


「じゃあ、またあとで。」


階段を降り切った所で、晴可先輩が言った時だった。


「雅?」


聞き覚えのある声が背後からかけられ、私は瞠目した。

出来れば二度と聞きたくなかった声の持ち主。

私はゆっくり振り返った。


「・・・京香。」


そこには驚いた顔の従姉妹が立っていた。


「雅ちゃん?」


私の態度に不信を抱いたのか、向こうに行きかけた晴可先輩が戻ってきた。

ああ、いけない。


「うわぁ、カッコイイ!!さすが学園はレベルちがいますね!!初めまして!私、雅の従姉妹で中川京香と言います。お名前教えてもらってもいいですか?」


京香は一般的に美少女の部類に入ると思う。

そして本人もそれをよく自覚している。

彼女は恐らくその辺にいる男子なら思わず見とれてしまうような笑顔で晴可先輩に自己紹介した。


「ああ、雅ちゃんの従姉妹か。俺は貴島晴可。悪いけど部外者は帰ってもらう時間やから。」

「貴島晴可さん。素敵なお名前ですね。晴可さんって呼んでもいいですか?」


そう。わが従姉妹はこんな人間だった。

自分の聞きたくない事は聞かない。

自分の言いたい事だけを言い続ける。

会話に非常に労力を使う相手だ。

しかもその労力が報われる事は、あまりない。


「あのな・・?」


勝手にしゃべり続ける京香に困った視線を送ってる晴可先輩。


「晴可先輩。行ってください。ここは大丈夫ですから。」


先輩がここにいる限り、京香は居座るに違いない。

少し微笑むと晴可先輩は気がかりな顔をしながらも、仕事に戻っていった。


「ふうん。やっぱり雅は雅ね。」


晴可先輩の姿が視界から消えると、京香の口調が変わった。


「どこに行っても、最上のものを澄ました顔で手に入れるのよね。雅って。」

「・・・そろそろ帰る時間よ。」


私は表情を崩さず、事実だけを伝える。


「縄張りから出ていけって?強欲なのも相変わらずね。もう少しいいじゃない。なんて言ってあのイケメン落としたの?私、天涯孤独で淋しいんですとでも言ったのかしら。それとも将来を期待された元水泳選手だったとでも?」

「・・・。」


何を言っても無駄だ。

昔から京香はこんなだった。


「なんでも思い通りに手に入れられるんなら、あの人私に譲ってよ。雅ならあの人の代わりなんてすぐ見つけられるでしょ?」

「晴可先輩はものじゃない。」


怒りを抑えて言うが、京香は形の良いくちびるを吊りあげて笑った。


「男なんて女のランクを上げる道具じゃないの。なに純情ぶってんのよ。昔みたいにハーレム作ってるんでしょ?男の一人や二人でガタガタ言わないでよ。」

「・・・。」


やっぱり会話が不毛だ。


「返事がないってことは、了解ってことよね?」

「晴可先輩があなたに興味を持つ訳ないでしょう?」


ちょっと辛辣すぎたか、京香の顔が歪む。


「なに言ってるの!?訳わからない。あんたの何が私より優ってるって言うのよ!?」

「先輩はものじゃないって言ってるのよ。」

「だからなに!?じゃあ、あんたのものでもないんでしょう!?」

「だから。」

「そうよ。誰のものでもないんだから、あんたに許可してもらう必要なんてないわね。好きにさせてもらうわ。せいぜい後悔しないようにね。」

「・・・。」


私が深いため息をついた時。


「そこの部外者、時間はとっくに過ぎてる。摘み出されたくなかったら、さっさと帰るんだな。」


この声は。

私は振り返った。


「木田先輩。」



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