学園祭
「はいっ。これ、雅ちゃんの分ね。」
学園祭を明日に控えた忙しい空気の中。
上機嫌の星宮さんが紙袋を掲げた。
「私の・・・?」
不審に思いながら、中を覗いた私は絶句した。
「ちょっ・・・!?」
「可愛いでしょ?」
にこにこにこ。
星宮さんは満面の笑みだ。
「でも話し合いで私は裏方ってことに。」
「なんだけど、やっぱり女子みんなでお揃いがいいなって事になって。加納さんたちも気に入ったみたいで、ぜひって言うし。」
本当だろうか・・・。
私は袋の中身を取り出した。
「スカートみじかっ!!」
これは無理でしょう!?
「あのね、星宮さんだってこれがマズイって分かってるでしょ?」
にこにこにこ。
「星宮さんだって無事では済まないかも知れないよ?」
「私は大丈夫。」
やけに自信たっぷりの星宮さん。
怒った晴可先輩を知らない訳ではないだろうに。
「それに真田くんだって、絶対責任問われるよ?」
クラス委員である真田くんは今回、私の扱いには非常に心を砕いていた。
それは絶対、晴可先輩の意向があるに違いない。
「あ~。うん。まあそれは、彼の宿命という事で。」
「はあ!?」
時々、星宮さんは超絶美少女の顔をしたまま、すごい事をさらりと言う。
「とにかく着てみて。お直しがいるかも知れないし。」
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「わー、可愛い~。」
星宮さんの一言を合図に、女子がわらわらと集まってくる。
「いい!!朝霧さんが一番似合ってるかも!?」
「ぴったりだね~。お直しいらないね。」
騒ぎに男子が数人、開けっぱなしの入口から覗きに来るが、みんなギョッとした顔でそそくさと逃げていく。
確かに直視に耐えられない格好かも知れないけど、地味に傷つくな~。
明日は学園最大の行事、学園祭だ。
この一カ月、各クラス総力を挙げて準備にまい進してきた。
クラスの出し物は学年で決められており、一年生はゲームか物品販売、二年生が飲食物、三年生は演劇となっている。
私たちのクラスは話し合いの結果、喫茶をすることになったのだが。
「普通の喫茶じゃつまらないから、男子は執事で女子はメイドになろうよ。」
と言う星宮さんの意見に、クラスは妙な方向へ盛り上がりを見せていった。
正直、私は興味ない。
割り振られた役割をこなすだけと思っていたが、さすがにメイドさんはまずいだろう。
真田くんも全員が扮装をする事に難色を示し、裏方は制服のままでいいと確約をもぎとっていたのだが。
実力行使。
メイド服に身を包んだ私を見る星宮さんの顔には、そう書いてあった。
「朝霧さん、明日の事なんだけど。」
制服に着替え、机を集めてテーブルクロスを広げていると、沈痛な顔をした真田くんが話しかけてきた。
「星宮さんがあんな手を使ってくるなんて、僕が甘かったよ。」
「・・・。」
「こうなったら何としてでも逃げ切るしかない。全力で頑張るから、朝霧さんも協力してね。」
「逃げ切るって・・・。」
着ない、という選択はないのだろうか。
「星宮さん、見ただろ?着ないって突っぱねても無駄だと思うよ。女子全員、味方につけてるし。」
「・・・。」
「大丈夫。まずは何をおいても、晴可先輩は朝霧さんに会いに来る。それまでは制服でいられるように星宮さんに交渉するよ。それからは僕の情報網を駆使して、先輩の動向を把握する。大丈夫。当日生徒会は忙しいし、こっちにはなかなか来れないはずだ。来た時には裏に隠れてもらって、朝霧さんは会場を見に行ったと言えば、探しに行ってくれるだろう。」
「・・・。」
そんな簡単にいかないと思うんだけど。
真田くんの悲壮な顔を見ると、何も言う事が出来なかった。