星宮 姫のひとりごと4
彬くんに雅ちゃんを運ばせたあと、私は晴可先輩と対峙した。
「自分が何をしたか、わかってるの?」
晴可先輩は言葉もなく、ただ項垂れる。
「分かっているなら、雅ちゃんの半径5メートル以内には立ち入らないで。」
それは雅ちゃんに危害を加えた木田祐真に先輩が発した警告と同じだ。
晴可先輩の目が一瞬見開かれ、すぐに力を失った。
「わかった。雅ちゃんのこと、頼む。」
やがて雅ちゃんが目を覚ました。
最初、訳が分からないという顔をしていたが、トイレに行くとベッドから起き上がった。
多少ふらついているが、体調に問題はなさそうだ。
私は先に寝ると言ったが、監視を怠るつもりはない。
恐らく、晴可先輩はそう遠くない場所にいるにちがいない。
自身のしでかした事に頭を抱えながら。
案の定、談話室で晴可先輩は頭を抱えていた。
静かに近づく雅ちゃん。
二人は静かに言葉を交わし、口づけを交わした。
他人のラブシーンを覗く趣味はないので部屋に戻ることにした。
あの二人はもう大丈夫だろう。
「よう。ご苦労さん。」
廊下を曲がると壁に寄りかかり腕組みをした彬くんに遭遇した。
いや、彼もおそらく見張っていたのだろうが。
「そちらこそ。」
「悪かったな。」
「これも仕事よ。」
「とにかく良かった。友人を失くさずにすんで。」
私は瞠目した。
友人。
それは晴可先輩?雅ちゃん?それとも私のこと?
彬くんは暗がりの中、微笑みを浮かべている。
まあ、いい。
私も微笑んだ。
「そうね。私たちはこれからも協力しないと、ね。」
人と人外との融和。
学園で私が見つけたのは、新たな私の、私たちの使命だった。
「腹減ったな。」
「そういえば、夕飯食べ損ねたわ。」
「どっか食いに行くか。」
「今何時だと思ってるの?生徒会長の台詞?」
「まあ、かたい事言うな。」
軽口を叩きあいながら、肩を並べて歩く心地よい関係。
いつまでもこの場所に留まりたいと秘かに思う。
大事な時はいつだって駆け足で過ぎていくから。
胸が微かに痛む。
いつまでも居心地の良い場所にはいられない。
それを私は知っている。
でももうひとつ、分かっているのは。
限られた時間だからこそ、輝くのだという事。
私はこの時を忘れない。
雅ちゃんの事、彬くんの事、仲間になったみんなの事。
どこへ行っても、私はこの学園を、煌めいた時間を忘れないだろう。