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恋物語  作者: ゆうこ
幕間
49/77

星宮 姫のひとりごと2

入学して一カ月が過ぎた。

学園内には特に問題は見当たらない。

ごく普通の高校だ。

勢い込んで学園に乗り込んだ私は出鼻をくじかれた思いだ。

そんな時に交流会の事を知った。

これは生徒会に接触するチャンス!!

私は強引に実行委員に名乗りを上げた。

その時、つい雅ちゃんを巻き込んでしまったのは、ほんの出来心だったのだけど・・。


初めての実行委員会。

会長の桐生 彬、副会長の涼風宗春、会計の貴島晴可、書記の幸田睦月。

みんな桁外れの力を持っている。

特に会長と会計は、おそらく先祖がえりと呼ばれる者たちだ。


雅ちゃんと一緒に会場班になった私たちの所に、軽薄眼鏡の会計とほんわか書記がやってきた。

書記は無害だ。

一番本質が見えないのがこの会計だ。

いかにも気安げな笑いを浮かべているが、瞳の奥は全くちがう光を宿している。

私の中で貴島晴可は要注意認定者になった。


準備初日、黙々とテーブルを運び出す男子実行委員たち。

一緒にその様子を見ていた雅ちゃんが、手伝うのは無理と判断して離れていくのを確認してから、私は行動を開始した。


「私も手伝いまーす。」


と言って、手近にあったテーブルの足をむんずと掴んだ。

人間の女の子の危機に誰が動くか動かないか。

危険分子をあぶりだすのが目的だ。

ぐいっと力一杯手を引いたとき、雅ちゃんが叫び声と共に飛び込んできた。

えっ!?なに!?

雅ちゃん、素早すぎる!!

まずい!!巻き込んじゃう!!!!

私は自分の周りに張った結界を雅ちゃんにもかけようとするが、間に合わない!!!!

その時、私の体はふわりと舞い上がった。


「!!!?」


いつ飛び込んできたのか、私は会長に抱きかかえられ、2階バルコニーの上にいた。

雅ちゃんは!?

雅ちゃんは例の会計に抱きしめられていた。

慌てて離れようとする雅ちゃんを離さず、なおかつ顔を寄せていく会計!!

なにしてんのよ~~~~!!

やっぱりこいつは危険だ。

貴島晴可は要注意認定から危険認定に昇格した。


「ふーん。加護持ちか。」


頭の上から降ってきた声に顔を上げる。

すぐ近くに会長の端正な顔があった。

うーん。耳元で聞くと破壊力抜群の低音ボイスだ。


「星宮の家に先祖がえりがいると聞いていたが、お前がそうか。随分活躍しているそうじゃないか。噂は聞いている。」

「・・・。」

「そんな顔をして睨むな。俺たち・・・少なくとも現生徒会はお前の敵じゃない。学園もすべてとは言わないが、ほぼ俺たちが掌握している。ここは外よりよほど安全な場所だ。」

「じゃあ、あれはどうなの?」


私は視線を下に動かす。

大いにひきつった顔の雅ちゃんと、それをうれしそうに眺める変態眼鏡。


「・・・あれは。確かにちょっとあれだな・・・。」


会長は苦い顔をした。



生徒会室に場所を移し、私は会長と向かい合って座っていた。

副会長が紅茶を出してくれる。


「まずは改めて、星宮 姫です。」


ぺこりと頭を下げる。


「なのでお前ではなく姫と呼んでください。会長さんの事は彬くん、副会長さんの事は宗春くんと呼んでいいですか?」


ニコリと笑うと二人の目が丸くなった。

すかさずコテンと首をかたむけ微笑んだ。


「お互い、利害関係にならないように努力しましょうね?」


香りの良い紅茶をゆっくりと味わう。


「で、先程の事だけど。」

「先程、とは?」


私が彬くんに話を振ると、それを知らない宗春くんが尋ねた。

彬くんが掻い摘んで説明すると、宗春くんはふむと腕を組んだ。


「珍しいですね、晴可がそんな事。」

「確かにな。晴可に限って、と言いたいところだが、あれは俺にも行き過ぎなように見えた。」

「珍しいことなの?あの軽薄眼鏡、いつもあの調子で女の子に悪さしてるんじゃないの?」


私の言葉に二人は目を見交わす。


「いや。晴可はああ見えてストイックな男だから。」

「ストイック!?ストイックの意味、知ってて言ってるの!?」


思わず叫んでいた。

あのにやけた顔のどこがストイックだというのか。


「・・・言っておくがあいつは気のやり取りをした事はないぞ。」

「え?」


人外は必ずしも気を必要とはしない。

人の気はいわゆる嗜好品だ。

けれどそれを欲するのは人外の本能。

人外の子は生まれてすぐに母から乳と共に気を与えられるという。

本能のままに母の気をもらう。

そうやって自分でその欲求をコントロールする術を学んでいくらしい。

彼はそれすらしていない?


「俺と晴可は先祖がえりだ。先祖がえりは生まれおちたその時から、膨大な力を持っている。だが赤ん坊はその力をコントロールすることができない。だから母の気を与える事は叶わない。俺の母は人外だったから、引き離されはしなかった。だが、晴可の母親は人間だった。しかも彼女は自分の命と引き換えに晴可を産み落とした。奴は母の温もりも知らぬまま、関西の本家に預けられた。そこにしか晴可の力を制御できる者がいなかったと聞く。」

「・・・。」

「大きすぎる力とは因果なものだ。それは加護持ちでも同じだろう?」


彬くんは苦い笑みをこぼした。

私も曖昧に笑う。


「まあ、そんな訳で、俺も晴可もある意味歪んでいるかも知れない。だが晴可は無節操に人間に手を出す奴ではないと断言できる。」

「じゃあ、あれはどう説明するの?」


私の問いに二人は顔を見合わせる。


「つまり。」

「そうだな。あれが伴侶ということなのか。」

「はんりょ?」

「伴侶とは、俺たちと生涯を共にする唯一の存在。晴可は己の伴侶を見つけたのかも知れない。」


つまり私は晴可先輩を運命の人に引きあわせてしまったという事なのだろうか。

私は心の中で雅ちゃんに土下座した。

あちゃー。

ごめん。雅ちゃん・・・。


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