星宮 姫のひとりごと1
いつも読んでいただきありがとうございます。
あまり活躍の機会のなかった姫ちゃん視点です。
月明かりの中、二人の影がそっと重なる。
穏やかな満ち足りた空気。
大丈夫みたいね。
私は談話室を後にした。
私の名前は星宮 姫。
名前からしてお姫様チックで、さらに容姿がいかにもなので大抵の人からは庇護欲を抱かれる。
だが私は守られる側の人間ではない。
人外から人を守る。
それが私の仕事だ。
今年の4月、私はこの学園に乗り込んだ。
外ではほんの一握りの者しか知らないが、この学園は人外の子供のために創設された。
そうやって隔離しておいてくれるならそれでいいのに、学園は高等部になると人間の、主に女子を受け入れる。
人外の男女比は9対1。
それを解消するためだろうが、人外が人を喰らうという性質を持っている以上、危険は伴う。
学費に加え、生活費までを面倒見てくれるという、家庭の事情を抱えた特待生は仕方ない。
問題なのは人外と縁を結び、その財力の恩恵に預かろうという困った連中があとを絶たないという事だ。
だから、女子の中で8割以上が人外との婚姻目的で在籍していると言っても過言ではない。
無駄に顔がいいからね。
人外と言っても色々いる。
能力的にも、人格的にも実に様々だ。
ごく普通の感覚を持つ者から、非人間的な感覚を持つ者まで。
入学する女子はほとんどこの事実を知らない。
何も知らずに危険な相手に近づこうと必死になる。
年に数人、急な転校や休学をしている者が存在するのに気づきもしないで・・・。
わが星宮家は昔から人間に災いする人外の封印を生業としてきた、いわゆる加護持ちという家系だ。
私は一族の中でも、先祖がえりと呼ばれる強力な力を持つ。
封印に必要な護符も詠唱も必要ない。
必要なのは気の集中のみ。
えへん。
この学園に来るまで、私は全国各地を封印の旅に渡り歩いてきた。
そしてようやく一族の長の許しが出て、人外の本拠地とも言えるこの学園に乗り込む事になったのだ。
高鳴る胸を抑えて寮に入った私を出迎えたのは、異様にテンションの低い女の子だった。
大丈夫か?この子。
まさか人外のエサになってるとか・・・。
テンション高めに自己紹介をしつつ、相手の様子を窺う。
朝霧 雅と名乗った少女は、何のマーキングもされていないようだった。
私はほっと息を吐く。
人外は独占欲が強い。
気に入った相手には自分の匂いを付けたり、時には気を流し込む。
いわゆるマーキングだ。
そして人外のもっとも厄介なところ。
人を喰らう。
喰らうと言っても本当に食べる訳ではない。
人の気を吸い取るのだ。
それが少量なら問題ない。
気を吸いつつ自分の気を与えるのは、彼らの愛の行為らしい。
だが、ひとときに大量の気を一方的に奪われると人は死ぬ。
朝霧 雅は定期的に人外のエサになっているのかと思ったが、そのテンションの低さは生来のものらしかった。
彼女は私に関わりたくない空気満載ではあったが、それでも寮の案内をしてくれた。
律儀な子なんだ。
なんか。この子、可愛い。
ちらりちらりとこちらを警戒する視線が、まるで人の温もりに怯える子猫みたいで・・・。
私は同室の雅ちゃんが気に入ってしまった。
よーし。もうひとつのミッション発動!!
この学園にいる間に、雅ちゃんを手懐けてみせる!!
私は秘かに心に誓った。




