答えは自分の中に
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今回で第3章は終了です。
「雅ちゃん?」
ベッドの中で目を覚ます。
この頃よくあるパターンだ。
そっと目を開けると心配そうな星宮さんの顔があった。
「気が付いた?」
なんだ?
どうしたんだっけ。
私は混乱していた。
「酷いわよね、晴可先輩。雅ちゃんを守るどころかこんなにして。」
星宮さんの言葉に記憶が甦る。
晴可先輩は・・・。
「大丈夫?」
私が体を起こしたのを見て、星宮さんが眉をひそめた。
足は動きそうだ。
「うん。トイレ。」
「付いていこうか?」
ベッドから降り、歩けるのを確認する。
「ううん。大丈夫。歩けるから。」
星宮さんを安心させるように笑顔を浮かべる。
「ごめんね。もう、夜中だよね。」
「ううん。私が勝手に起きてただけだから。本当に大丈夫?」
心配そうな星宮さんに頷いて、そろそろと歩きだす。
「じゃあ、私は寝るわね。そうそう。晴可先輩、ずいぶん凹んでたわ。雅ちゃんの顔見れないって言ってたけど、きっと気になって遠くへも行けないはずよ。」
あははと星宮さんが笑った。
いつになく尖った口調は気のせいだろうか。
静まり返った談話室に黒い人影が一つ。
月明かりに浮かんでいた。
頭を抱えてうずくまる人影に、私はゆっくりと近づいた。
暗闇に目が慣れるに従い、それが晴可先輩だとわかる。
ふっと空気が動いて、晴可先輩が顔を上げた。
「・・・雅ちゃん。」
微かな声。
私はゆっくりと近づいていく。
「無理しやんでいいよ。怖いやろ?俺の事。」
晴可先輩が沈んだ声でつぶやいて、また顔を伏せた。
「俺自身が怖い。大事な雅ちゃんに、なんであんな事出来たんかわからん。」
私はかまわず近づく。
私と先輩の距離はあと一歩。
多分、先輩が私を殺そうとしたら難なく果たせる距離。
「晴可先輩。」
「雅ちゃん。ごめんな。」
晴可先輩の声は震えていた。
「ごめん。ほんとにごめん。」
もういい。
この人のこんな姿は見たくない。
いつものように笑っていてほしい。
もう苦しまないでほしい。
そんな思いが心の底から湧きあがってくる。
私は最後の距離を詰めた。
ソファーに座る晴可先輩の頭はちょうど私の胸辺りにある。
私はそおっとそれを抱きしめた。
ビクンと晴可先輩の体が強張った。
「!!みやび・・。」
「もういいです。私は大丈夫です。」
私は腕の中の晴可先輩の頭に頬をそっと寄せる。
この人は暗闇でどれだけ己を責め続けていたんだろうか。
「晴可先輩だけが悪いんじゃない。私も先輩の言う事を聞かなかったから。」
「雅ちゃん。」
しばらく私の腕の中でじっとしていた晴可先輩の腕が、そっと壊れ物を扱うように私の腰に回された。
まるで溶け合うようにぴったりと隙間なく、お互いの体温を感じあう。
強張っていた晴可先輩の体から徐々に力が抜けていった。
温かい。
欠けていたパズルのピースがかちりとはまったように、私の中が何かで満たされていく。
そうか。
そうだったのか。
私はこの人を求めていた。
ずっと前から。
晴可先輩が頭を上げたので私は手を緩めた。
私を見上げる先輩の目は不安に揺れている。
「私、先輩の事怖くないです。」
「・・・。」
「だって私、晴可先輩の事、大好きですから。」
「!!!!」
晴可先輩の目が大きく見開かれた。
私は微笑んでそっと晴可先輩にくちづけた。
触れるだけの長いキス。
奪うのではなく、お互いの温もりを与えあう、そんなキス。
どちらからともなくくちびるを離すと、長いため息をついた。
「雅ちゃん。ほんとにいいん?俺の事許して・・・。」
「はい。」
「俺、自分が止められへんだ。こんなの初めてや。俺、こんなの嫌やから。雅ちゃん傷つけたないから。
もし雅ちゃんが少しでも俺の事怖いんなら・・・。」
「大事にしてくれますよね?」
私はにっこり微笑む。
大丈夫。
私は晴可先輩を信じている。
「うん。絶対に雅ちゃんを泣かさへん。大事にする。」
やっと晴可先輩の顔に笑みが戻った。
「雅ちゃん!ありがとう!!」
「うぐっ!?」
思い切り抱きしめられて、危うく気を失うところだった。
一瞬、不安と後悔が私の心をよぎった事は誰にも責められないだろう。
この日、晴可先輩は優しい先輩から、私の恋人になった。
沢山の方に読んでいただいて感謝です。
次回から数話幕間をはさんで最終章に入ります。
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