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恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
47/77

答えは自分の中に

PV200000アクセス超、36000ユニーク超、ありがとうございます。

今回で第3章は終了です。


「雅ちゃん?」


ベッドの中で目を覚ます。

この頃よくあるパターンだ。

そっと目を開けると心配そうな星宮さんの顔があった。


「気が付いた?」


なんだ?

どうしたんだっけ。

私は混乱していた。


「酷いわよね、晴可先輩。雅ちゃんを守るどころかこんなにして。」


星宮さんの言葉に記憶が甦る。

晴可先輩は・・・。


「大丈夫?」


私が体を起こしたのを見て、星宮さんが眉をひそめた。

足は動きそうだ。


「うん。トイレ。」

「付いていこうか?」


ベッドから降り、歩けるのを確認する。


「ううん。大丈夫。歩けるから。」


星宮さんを安心させるように笑顔を浮かべる。


「ごめんね。もう、夜中だよね。」

「ううん。私が勝手に起きてただけだから。本当に大丈夫?」


心配そうな星宮さんに頷いて、そろそろと歩きだす。


「じゃあ、私は寝るわね。そうそう。晴可先輩、ずいぶん凹んでたわ。雅ちゃんの顔見れないって言ってたけど、きっと気になって遠くへも行けないはずよ。」


あははと星宮さんが笑った。

いつになく尖った口調は気のせいだろうか。



静まり返った談話室に黒い人影が一つ。

月明かりに浮かんでいた。

頭を抱えてうずくまる人影に、私はゆっくりと近づいた。

暗闇に目が慣れるに従い、それが晴可先輩だとわかる。

ふっと空気が動いて、晴可先輩が顔を上げた。


「・・・雅ちゃん。」


微かな声。

私はゆっくりと近づいていく。


「無理しやんでいいよ。怖いやろ?俺の事。」


晴可先輩が沈んだ声でつぶやいて、また顔を伏せた。


「俺自身が怖い。大事な雅ちゃんに、なんであんな事出来たんかわからん。」


私はかまわず近づく。

私と先輩の距離はあと一歩。

多分、先輩が私を殺そうとしたら難なく果たせる距離。


「晴可先輩。」

「雅ちゃん。ごめんな。」


晴可先輩の声は震えていた。


「ごめん。ほんとにごめん。」


もういい。

この人のこんな姿は見たくない。

いつものように笑っていてほしい。

もう苦しまないでほしい。

そんな思いが心の底から湧きあがってくる。


私は最後の距離を詰めた。

ソファーに座る晴可先輩の頭はちょうど私の胸辺りにある。

私はそおっとそれを抱きしめた。

ビクンと晴可先輩の体が強張った。


「!!みやび・・。」

「もういいです。私は大丈夫です。」


私は腕の中の晴可先輩の頭に頬をそっと寄せる。

この人は暗闇でどれだけ己を責め続けていたんだろうか。


「晴可先輩だけが悪いんじゃない。私も先輩の言う事を聞かなかったから。」

「雅ちゃん。」


しばらく私の腕の中でじっとしていた晴可先輩の腕が、そっと壊れ物を扱うように私の腰に回された。

まるで溶け合うようにぴったりと隙間なく、お互いの体温を感じあう。

強張っていた晴可先輩の体から徐々に力が抜けていった。

温かい。

欠けていたパズルのピースがかちりとはまったように、私の中が何かで満たされていく。

そうか。

そうだったのか。

私はこの人を求めていた。

ずっと前から。


晴可先輩が頭を上げたので私は手を緩めた。

私を見上げる先輩の目は不安に揺れている。


「私、先輩の事怖くないです。」

「・・・。」

「だって私、晴可先輩の事、大好きですから。」

「!!!!」


晴可先輩の目が大きく見開かれた。

私は微笑んでそっと晴可先輩にくちづけた。

触れるだけの長いキス。

奪うのではなく、お互いの温もりを与えあう、そんなキス。

どちらからともなくくちびるを離すと、長いため息をついた。


「雅ちゃん。ほんとにいいん?俺の事許して・・・。」

「はい。」

「俺、自分が止められへんだ。こんなの初めてや。俺、こんなの嫌やから。雅ちゃん傷つけたないから。

もし雅ちゃんが少しでも俺の事怖いんなら・・・。」

「大事にしてくれますよね?」


私はにっこり微笑む。

大丈夫。

私は晴可先輩を信じている。


「うん。絶対に雅ちゃんを泣かさへん。大事にする。」


やっと晴可先輩の顔に笑みが戻った。


「雅ちゃん!ありがとう!!」

「うぐっ!?」


思い切り抱きしめられて、危うく気を失うところだった。

一瞬、不安と後悔が私の心をよぎった事は誰にも責められないだろう。



この日、晴可先輩は優しい先輩から、私の恋人になった。


沢山の方に読んでいただいて感謝です。

次回から数話幕間をはさんで最終章に入ります。

続けて応援よろしくお願いします。

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