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恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
46/77

絶体絶命

うわーん。怖いよう。

晴可先輩は黙って校舎に入っていく。

そのまま歩みを止めず、たどり着いたのは生徒会室だった。


「先輩?試合は?」


沈黙が怖くて尋ねるが、返事はない。

いつもなら丁寧すぎるくらい慎重に扱ってくれるのに、今日はまるで荷物のようにソファーに投げ出される。

ソファーではねる私の体を押さえつけるように、晴可先輩が私の肩に手をかけた。


「雅ちゃん、俺が怒ってるのわかってる?」


近っ!!近すぎます!!!おまけに怖すぎます!!!


「ははははい。ごめんなさい。」


怖い怖い怖い。

人とか人外とか関係なく、晴可先輩が怖い。

私の本能が生命の危機に警鐘を鳴らしている。


「雅ちゃん。あいつに殺されかけたん忘れたん?そやのに呑気に世間話か?」


底光りのする目で射抜かれ、指先がすうっと冷たくなる。

逃げなくては、そう思うのに体に力が入らない。


「せ、世間話という訳ではなくて・・・。」

「ふーん。じゃあ、なに話してたん?」


いつもと変わらず、言葉は軽い。

でも軽く発言できる雰囲気ではない。

もしなにか地雷を踏んだら・・・。

私の命はなくなる。

木田先輩の時には感じなかった命の危機をひしひしと感じる。


「言えへんことなん?」


晴可先輩がぐいっと顔を寄せた。

互いのくちびるに吐息がかかるほどの距離。

でも先輩の目に甘さは微塵もない。

どちらかと言うと食べられそうな雰囲気!?


「せん、ぱ、い・・・。」

「木田より俺の方が怖いん?」


それ以上耐えられなくて顔を背けようとした、その瞬間。

ガツンと何かがくちびるにぶつかった。


「!!!?」


キス!?これはキスなのか!?

晴可先輩のくちびるが私のくちびるを塞いでいる。


「ん~~~~~!!」


口を開けると本当に食べられそうなので、必死にくちびるを閉じながら抗議をする。

ほんの少し動かせる右手で先輩の肩を叩くが、先輩は私の抗議を完全に黙殺した。

くるしい。

さんそがぜったいてきにたりない。

頭がぼおっとして、目には涙がにじむ。

不意に晴可先輩のくちびるが離れた。


「!!!」


反射的に私は酸素を貪る。

神様ありがとう!!

酸欠の危機に私はすっかり油断していた。


「絶対に、渡さへん。雅。」


晴可先輩の掠れた声にはっと目を見開く。


「~~~~~~~!!!!!」


私の悲鳴は晴可先輩に奪われていた。


食べられている。

これは完全に食べられている。

何度も何度も角度を変え、どんどん深くなっていく口づけに、私の体から力が抜けていく。

貴島のエサ。

マーキング。

妙に冷静な頭にそんな単語が浮かんでは消えた。

私は抵抗を放棄した。

私の人生、ここまでだったか。

父さん、母さん、今度こそ本当に行きそうです。

晴可先輩・・・。

先輩は私が死んだらなんて思うんだろう・・・。

私は意識を手放した。


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