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恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
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危機到来

「あ~。いけね。俺、お前の半径5メートル以内に立ち入り禁止なんだわ。」


久しぶりに見る木田先輩は、頭に手を当てて顔を歪めた。

だからどれだけ探しても姿が見えなかったのか。

私は秘かに納得する。


「この前は悪かったな。」


そう言って先輩はそそくさと踵を返した。


「あっ。ちょっと待ってください!!」


思わず呼びとめていた。


「あの、お聞きしたい事があるんですが。」


あの時からずっと心に引っかかっていた事。


「うーん?なんだ?」


木田先輩は嫌そうな顔をしながらも引き返してくれた。


「手早くしろよ。あいつに見つかると次は俺、殺されるから。」


さらっと怖い事言いましたね、先輩・・・。

木田先輩は私から少し離れた場所に立って、私を見下ろした。


「木田先輩。先輩も大事なもの、失くしたんですか?」

「・・・。」


なぜだろう。

なぜ自分がそう感じたのか、はっきりわからない。

けどなんとなく思った。

木田先輩は心に大きな穴を抱えてる、と。


「お前、貴島になにか聞いたのか?」

「いいえ。先輩が生徒会にいたことと、けんか別れした事は聞きましたが。」


木田先輩は黙って空を見上げた。

しばらくして口を開く。


「なんでそんな事思う?」

「私もそうだったからです。」


あんな目に合わされたというのに、私は木田先輩が怖くなかった。

木田先輩と私は同じ痛みを抱えている。

なぜか私の本能がそう告げていた。


「この夏まで、私は誰とも関わりたくないと思って生きてきました。何も望まない代わりに何も奪われたくなかった。けれどそれは失うことと何も変わらない。そう気付かされました。」

「・・・。」

「失う事は怖い事です。でもそれを受け入れなければ前へは進めない。立ち止まる事は失うことと何も変わらない。」

「・・・ほんと、お前は変わってる。」


木田先輩がつぶやいた。


「なんで俺なんかに関わろうとするのかね。俺はお前を殺しかけたんだぜ?」

「心を閉ざして殻に閉じこもっていた私を助けてくれた人たちがいるんです。」

「それが?俺は助けてくれなんて・・・。」

「先輩は助けてほしいんですよね?」


私はじっと木田先輩の目を見つめた。

そう、先輩は助けを求めている。

自分で気がついていないだけ。


「お前ってほんと、美月に似てるわ。」


木田先輩はため息をついた。


「そうだな。俺はあいつを失った事を受け入れられない。大事にしたい。一生大事にしたいと思ってたあいつに突然消えられて。放っておけと言った貴島に腹を立てた。」

「理由を聞かなかったんですか?」


木田先輩は顔をしかめた。


「聞けなかった。聞く前にいなくなった。」

「探せばよかったのに。」

「・・・探して聞くのが怖かったのかもな。」

「じゃあ、今からでもいいじゃないですか。探して聞いて、納得するまで話をすれば。怒りたかったら怒って、泣きたかったら泣いたらいいんです。そうしたら次へ進めます。」


一瞬、木田先輩の目が丸く見開かれた。


「おんなじこと言いやがる。」


先輩が苦く笑う。


「お前ともっと早く話をしてたらな。」


そういう先輩の顔は限りなく優しかった。


その時、びゅっと風が巻き起こった。

と同時にガツンという音とくぐもったうめき声。

木田先輩と私の間に立つ後ろ姿は・・・。


「晴可先輩!?」


その向こうにうずくまる木田先輩。


「木田先輩!」


駆け寄ろうにも足が動かない。


「俺、言うたよな?雅ちゃんに近付くなって。」


地の底から響くような晴可先輩の声。

まずい。

怒ってる。


「待って!!晴可先輩!!ちがうんです。木田先輩は・・・。」

「悪かったよ。」


私の言葉は木田先輩に遮られた。

その目が何も言うなと言っている。


「・・・。」


晴可先輩がゆっくりとこちらを見た。

その目を見て、私は凍りついた。

怖い。

いつもの晴可先輩じゃない。

半端ない怒り。

半端なく怖い。


「次はないで。」


晴可先輩が静かに言って、こちらに歩いてくる。

やめて。来ないで。

嫌な汗が背中を伝う。


「雅ちゃん、話聞かせてもらおか。」


先輩は固まる私を軽々と抱きあげた。


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