表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
44/77

お邪魔虫

救護所へ行こうとする晴可先輩にお断りを入れて、体育館の外の木陰に運んでもらった。

けがをした訳ではないので治療のしようがないのだ。

オーバーヒートした状態なので、休ませるしかない。


「も~。ほんま雅ちゃん見てると寿命が縮むわ~。」


私を芝生の上に下ろすと、晴可先輩はそのまましゃがみこんだ。


「すみません。はしゃぎすぎました。」

「・・・雅ちゃんって活発な子やったんやな。」

「運動全般得意でした。」

「ほんとに医者に見せんでいいの?」

「少し休めば動かせるようになります。」


そうか、と晴可先輩は私の隣にドスンと腰を下ろした。


「・・・さっきの一年生、やっぱり俺が原因やよな。」


立てた両膝の上に両腕を乗せ、その間に頭を落とすようにして晴可先輩は大きなため息をついた。

最初から見られてたか。


「そうでしょうか。単に私が気に入らなかったんじゃないですか?」

「・・・ごめんな。」


晴可先輩が情けない顔でちらりと私を見た。

なら、放っておいてもらえませんか?と言おうとしたが、なぜか言葉が出てこなかった。


「こんな目に合わせても、離してやれん。ごめん。」


どきんと大きく胸が鳴った。

なんだ、これ。

見慣れたはずの晴可先輩の顔が、なぜかまともに見れない。

目を泳がせる私を不審げに見た晴可先輩が顔を上げた。


「雅ちゃん?」

「!!」


わわっ。

急に覗きこまないでください。

み、耳が熱い。

必死で縮こまる私に、晴可先輩がゆっくり手を伸ばす。

先輩の手が頬に触れた。

上気した頬にひやりとした感触が伝わり、小さく体がはねる。

心臓がいっそう大きく鳴りだす。

いつの間にか晴可先輩の顔がすぐ近くにあってなにか囁いていた。

けど自分の心臓の音にかき消され、何も聞こえない。

心臓が爆発する!!

その時。


「雅ちゃーん。大丈夫~?」

「あ~、ちょっと。姫ちゃん!?」


騒々しい声に晴可先輩の頭が、ガックリと私の肩の上に落ちた。


やってきたのは星宮さんと幸田くんだった。


「えーと。ごめんね~晴可。一応止めたんだけど・・・。」


幸田くんが特に悪びれた様子もなく笑う。


「晴可先輩、試合だって呼びにきたんですよ。」


私の隣に座りながら星宮さんがにこやかに言った。


「・・・わかった。」


表情を失くした先輩がゆらり、と立ちあがり、そのままふらふらと歩きだした。

幸田くんがこちらにウインクしてそれを追いかける。


「・・・。」


あれで次の試合は大丈夫だろうか・・・。

哀愁を漂わせた晴可先輩が体育館に消えていく。

隣で星宮さんがくつくつと肩をふるわせ笑っていた。


「いいもの見せてもらった。晴可先輩のあの顔・・・。」

「・・・意外に星宮さんって人が悪い?」

「止めてほしくなかった?」

「!!!?」


星宮さんは綺麗な眉をひょいと上げて微笑んだ。


「まったく。天然小悪魔なんだから。」

「て・・・!!」

「いいなあ~。思いっきり愛されちゃって。」

「・・・。」

「よかったね。雅ちゃん。」

「・・・。」


にっこりキラキラの笑顔で言われ、頬が熱くなる。


「星宮さーん。出番よー。」


遠くで誰かの声がした。


「あ、試合みたいよ。」


私が言うと、彼女はちょっと困った顔をした。


「でも、今私しかいないし、もう少し・・・。」


その言葉で星宮さんまで私を守っていてくれている事に気がつく。


「なに言ってるの?星宮さんが行かないと棄権になっちゃうかもしれないよ?私は大人しくしてるから大丈夫。すぐ誰か来るだろうし。」

「うーん。そうね。じゃあ、気をつけてね。」


渋りながらも再三呼ばれる自分の名前に、星宮さんは体育館の方へ走っていった。

星宮さんが立ち去り、私は久しぶりに一人になった。


はー。落ち着く~。

腕をのばして背伸びをすると、そのままごろんと寝ころんだ。

一人きりになるのは何日ぶりだろう。

気持ちいい。

目を閉じる。


「あれ?お前、こんなとこで何してんの?」


不意に頭の上から降ってきた、聞き覚えのある声にぱちりと目を開ける。


「・・・木田先輩。」


そこには微妙な顔の木田先輩が立っていた。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ