お邪魔虫
救護所へ行こうとする晴可先輩にお断りを入れて、体育館の外の木陰に運んでもらった。
けがをした訳ではないので治療のしようがないのだ。
オーバーヒートした状態なので、休ませるしかない。
「も~。ほんま雅ちゃん見てると寿命が縮むわ~。」
私を芝生の上に下ろすと、晴可先輩はそのまましゃがみこんだ。
「すみません。はしゃぎすぎました。」
「・・・雅ちゃんって活発な子やったんやな。」
「運動全般得意でした。」
「ほんとに医者に見せんでいいの?」
「少し休めば動かせるようになります。」
そうか、と晴可先輩は私の隣にドスンと腰を下ろした。
「・・・さっきの一年生、やっぱり俺が原因やよな。」
立てた両膝の上に両腕を乗せ、その間に頭を落とすようにして晴可先輩は大きなため息をついた。
最初から見られてたか。
「そうでしょうか。単に私が気に入らなかったんじゃないですか?」
「・・・ごめんな。」
晴可先輩が情けない顔でちらりと私を見た。
なら、放っておいてもらえませんか?と言おうとしたが、なぜか言葉が出てこなかった。
「こんな目に合わせても、離してやれん。ごめん。」
どきんと大きく胸が鳴った。
なんだ、これ。
見慣れたはずの晴可先輩の顔が、なぜかまともに見れない。
目を泳がせる私を不審げに見た晴可先輩が顔を上げた。
「雅ちゃん?」
「!!」
わわっ。
急に覗きこまないでください。
み、耳が熱い。
必死で縮こまる私に、晴可先輩がゆっくり手を伸ばす。
先輩の手が頬に触れた。
上気した頬にひやりとした感触が伝わり、小さく体がはねる。
心臓がいっそう大きく鳴りだす。
いつの間にか晴可先輩の顔がすぐ近くにあってなにか囁いていた。
けど自分の心臓の音にかき消され、何も聞こえない。
心臓が爆発する!!
その時。
「雅ちゃーん。大丈夫~?」
「あ~、ちょっと。姫ちゃん!?」
騒々しい声に晴可先輩の頭が、ガックリと私の肩の上に落ちた。
やってきたのは星宮さんと幸田くんだった。
「えーと。ごめんね~晴可。一応止めたんだけど・・・。」
幸田くんが特に悪びれた様子もなく笑う。
「晴可先輩、試合だって呼びにきたんですよ。」
私の隣に座りながら星宮さんがにこやかに言った。
「・・・わかった。」
表情を失くした先輩がゆらり、と立ちあがり、そのままふらふらと歩きだした。
幸田くんがこちらにウインクしてそれを追いかける。
「・・・。」
あれで次の試合は大丈夫だろうか・・・。
哀愁を漂わせた晴可先輩が体育館に消えていく。
隣で星宮さんがくつくつと肩をふるわせ笑っていた。
「いいもの見せてもらった。晴可先輩のあの顔・・・。」
「・・・意外に星宮さんって人が悪い?」
「止めてほしくなかった?」
「!!!?」
星宮さんは綺麗な眉をひょいと上げて微笑んだ。
「まったく。天然小悪魔なんだから。」
「て・・・!!」
「いいなあ~。思いっきり愛されちゃって。」
「・・・。」
「よかったね。雅ちゃん。」
「・・・。」
にっこりキラキラの笑顔で言われ、頬が熱くなる。
「星宮さーん。出番よー。」
遠くで誰かの声がした。
「あ、試合みたいよ。」
私が言うと、彼女はちょっと困った顔をした。
「でも、今私しかいないし、もう少し・・・。」
その言葉で星宮さんまで私を守っていてくれている事に気がつく。
「なに言ってるの?星宮さんが行かないと棄権になっちゃうかもしれないよ?私は大人しくしてるから大丈夫。すぐ誰か来るだろうし。」
「うーん。そうね。じゃあ、気をつけてね。」
渋りながらも再三呼ばれる自分の名前に、星宮さんは体育館の方へ走っていった。
星宮さんが立ち去り、私は久しぶりに一人になった。
はー。落ち着く~。
腕をのばして背伸びをすると、そのままごろんと寝ころんだ。
一人きりになるのは何日ぶりだろう。
気持ちいい。
目を閉じる。
「あれ?お前、こんなとこで何してんの?」
不意に頭の上から降ってきた、聞き覚えのある声にぱちりと目を開ける。
「・・・木田先輩。」
そこには微妙な顔の木田先輩が立っていた。