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恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
43/77

試合

「えっ!?貧血!?」

「そう。ついさっき。少し休めば大丈夫って言ってるから、この試合だけ出てくれないかな。他の補欠は捕まらないし。」

「・・・わかった。」


背の高いバスケ部の子からゼッケンを受け取る。

出るなんて思ってなかったからウォーミングアップもしてないのに。

しかもトーナメント戦。

足を引っ張りそうでいやだな。


「大丈夫、大丈夫。次の相手一年生だし。人数合わせだから。」

「分かった。・・・えっと。」

「・・・志村。ついこないだも名乗ったわよ。」

「あ、ごめんごめん。志村さん。」


事故後、まったくスポーツが出来なくなった訳ではない。

走る事も出来るし、バスケだって問題ない。

けれどあんまりスポーツはしたくない。

理由は・・・。

どんっ。


「大丈夫!?」


尻餅をついた私を志村さんが引っ張り起こしてくれる。


「ちょっと!あんたたち、何回朝霧さんにぶつかってんのよ!?」


志村さんが食ってかかったのはバスケ部の一年生だ。


「あ~。すみません、先輩~。なんだか今日は調子が悪くって~。」

「コントロールも定まらないんですよね~。」


へらへら笑うその顔はちっとも悪いと思ってない顔だ。


「ごめんね。あいつら絶対あとで締めるから。朝霧さんはゴール下から動かないで。」

「わかった。」


試合が始まって何回ぶつかられただろう。

ボールを持っているなら仕方ないが、まったく関係のないところで足を引っ掛けられ、挙句の果てには後ろから突き飛ばされた。

怒れば増長するだけだろうから、冷静を心がけているけど、内心怒りの炎が燃え上がっている。

スポーツを汚す行為は許しがたい。

けど。

まあ、この試合だけだ。

志村さんの言う通り、ゴール下で立っているだけならこれ以上被害を受ける事はないだろうし。

気持ちを抑えつけ、ゴール下に向かう途中。


「逃げるんだ~。なっさけなーい。」

「なんにも出来ないくせにいい気になってんじゃねえっつーの。」

「・・・。」


通りすがりに囁かれた嘲りに私のスイッチが入った。

私はゴール下に行くのをやめ、志村さんに視線で大丈夫だと合図する。

試合再開のホイッスルが鳴った。

と同時に私はボールに向かって走り出した。

あっけにとられている一年生の間をドリブルですり抜け、そのままノーガードでシュートする。

ボールはするりとゴールに吸い込まれていった。


「ナイスシュート!!朝霧さん!」


志村さんの声にみんな我に返ったようだ。

一年生が憎らしげな顔を隠す事もせず、ガードに貼りつく。

それをかわして一年生ボールをカットする。

走りこんできた志村さんにパスを出すと、彼女はそのまま綺麗にシュートを決めた。

さすがバスケ部。


試合が進むにつれてガードが厳しくなる。

当然ぶつかりあいも激しくなるが、今は全然気にならない。

それより本気のぶつかり合いが楽しくて仕方ない。


昔からスポーツはなんでも得意だった。

中学でもいろんなクラブから勧誘されていた。

事故後、スポーツを遠ざけた理由。

それは中途半端に自分を抑えられないから。

スイッチが入ったら、セーブしながらプレイするなんてできっこない。

でも。

あ~。結構リミット近いかも・・・。

ダメな方の左足の踏ん張りが利きにくくなってきた。

時計を見るとあと5分。

なんとかなるか。

私に絡んでいた一年生は今は必死だ。

ヘンな嫌がらせはもうない。

あるのは勝ちたいという気持ちだけ。

楽しい。

ボールを追いかけながら、久しぶりにそう思った。


残り時間は2分を切った。

もういいか。

こちらの勝利はほぼ決定だ。

足の限界も近い。

そう思った時、ぽんとボールが回ってきた。


どっとカットに群がる一年生。

とっさに体をひねって地面を蹴ったが、足が地面を感じなかった。

やばい!!

すとんと体が床に落ちた。

ボールがポンポンと転がっていき、みんな一斉にそちらに走っていく。

あ~、立てない。

困った。

一番最初に気づいてくれたのは志村さんだ。

ゴールを決めた足で飛んでくる。


「どうしたの!?ひねった!?」


その時、ゲームセットの笛が鳴り響いた。


「ひねったんじゃないけど、ちょっと立てない。手を貸してくれる?」


志村さんともう一人のチームメイトに肩を借りる。

痛みはないが、反対に左の腰あたりから足先まで感覚があまりない。


「ありがとう。朝霧さんのおかげでいい試合ができた。」


志村さんの言葉がうれしい。

試合終了の挨拶をして、コートをあとにしようとすると、後ろから一年生たちに声をかけられた。

一列に並んだ彼女たちが一斉に頭を下げる。


「朝霧先輩!すみませんでした!!」

「・・・あんたたち、あとでミーティングだからね。」


私が口を開くより早く、志村さんが怖い顔で言った。


「いいよ。久しぶりに楽しかったし。」


私は笑った。

だから完全に油断していた。

出入り口の方からただならぬ気配がしたと思ったら、周囲のざわめきが大きくなる。

えっと振り向く私の目に飛び込んできたのは・・・。


「雅ちゃん!!」


ギャー!!やめてー!!

あっという間に駆け込んできた晴可先輩に抱えられてしまった。


「せっせんぱい!!?何するんですか!?下ろして!!!」


ジタバタするが、晴可先輩は力を緩めない。

それどころか耳元に口を寄せ、とんでもない事をささやいた。


「雅ちゃん?おとなしくして?それともここでキスしてほしい?」


ひーっ。

先輩、顔がマジです。

やめて~。

涙目の私を志村さんが憐れんだ目で見送ってくれた。

なんか前にもこんな事なかった?

私は体育館からあっという間に連れ出されてしまった。

医学的な記述に根拠はありません。


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