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恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
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花園玉紀の観察

今回、花園先輩視点になります。

カーテンの引かれた薄暗い部屋の中、彼女は静かにベッドに横たわっていた。


「雅ちゃん?」


そっと声をかけるが彼女はピクリとも動かない。

静かに枕元の椅子に腰かけ、彼女の顔を観察する。

いつも凛と前を見据えている瞳は閉じられ、ほんの少し幼く見える顔はやっぱりどこにでもいそうな平凡な女子高生の顔だ。

なぜ彼女なんだろう。

その平凡さに魅かれたと言うなら、彼女でなくてもよかったはずだ。

誰にも心をよせなかった晴可が執着する少女に純粋な興味があった。


嫉妬、だろうか。

私はしばらく自分の心を反芻する。

ない、とは言いきれない自分がいる。

私と晴可、婚約していたというのは全くうそではない。


人外の中では数少ない女として生まれた私。

人外の中でも桁外れの力を持つ、先祖がえりとして生まれた晴可。

二人が一緒になるのはある意味当然のことで、正式に婚約を交わした訳ではないが両家はもちろん、当事者である私たちも無意識のうちにそう認識していたと思う。

それを良くも悪くもひっくり返したのが目の前で呑気に寝ている少女だった。

内々とは言え婚約者として認識されていた私を、執着する少女の護衛につけるなど、晴可の中での私の位置づけが知れるというものだ。

つまり、将来の事まで考えていた私とちがい、晴可にとって私は都合のいい虫よけでしかなかったということ。

百年の恋でも冷めるというものだ。


先祖がえりである晴可は自身の力を忌み嫌っているふしがある。

だから、いつだって何にだって本気で向き合おうとはしなかった。

のらりくらりと全てをかわす姿勢は小学部の頃からなんら変わらない。

おかげで昔から彬や宗春は責任事はすべて押し付けられ、気の毒な事この上ない。

しかも最終的な決定権は晴可にあるのだから、本当、よくやっている。

男に生まれなくて良かったと思う。

その晴可が本気で欲しがり、本気で守ろうとする少女。


「花園先輩?」


おっと。眠り姫のお目覚めだ。


「目が覚めた?気分はどう?」

「はい。大丈夫です。迷惑をおかけしてすみません。」


起き上がろうとするのを静止して、私は微笑む。


「いいのよ。それより、木田だって?災難だったわね。」

「はあ・・。」

「木田に会ったって事は聞いちゃった?私たちのこと。」


そろり、と雅ちゃんが視線をよこす。

小動物みたいな仕草に思わず胸がキュンとなる。


「人外・・・ですか?」

「そう。聞いたのね。私はあなたに危害を加えるつもりはないんだけど、怖い?」


単なる興味本位で聞いてみる。

大抵の人間の子は、人外と聞くとまず自分に危害を加えられないか不安になるようだ。

日本古来の鬼とか妖怪、西洋の吸血鬼の印象が強いからだろう。

特に人の気を喰らう、と聞かされるとかなりの確率で引く。


「・・・木田先輩にも聞かれたんですが、同じように生活できている以上、人か人外かで区別する必要はないと思います。私にとっては人外よりも、親衛隊の制裁の方がよっぽど怖いです。」


最後の言葉に思わず噴き出しそうになる。

ひくつく頬を必死でこらえる。

さすが晴可のお気に入り。

人外より制裁が怖いって・・・。


「まさか、あれから誰かになにか言われた?」


私の掌握している限りではそんな事はないはずだが。


「いいえ。もしかして花園先輩がなにか言ってくださってるのかとは思ってましたが。」

「そう。ならいいわ。制裁なんてもう気にしなくていいのよ。第一、晴可の親衛隊は解散したのよ。」

「えっ!?」


雅ちゃんは目を丸くした。

あら、可愛い。

普段無表情に近いだけに、こうやって感情を表すととっても可愛く見えるのはなぜかしら。


「ふふ。でね、新しく発足したのが、晴可と雅を見守る会っていうの。」

「!!!!?」


ばばっと雅ちゃんの顔が真っ赤に染まる。

確かに赤面モノのネーミングよね。


「ななななんですか!?その恥ずかしい会は!?」

「だって仕方ないでしょ。夏休みが終わって、蕩けるような目で雅ちゃんを見る晴可にみんなキュンキュンしちゃったみたいで。」

「・・・。」


雅ちゃんは地獄の淵を見たような顔をした。


「あなたもいけないのよ。交流会のとき、親衛隊の在り方について意見したじゃない?みんなあれから無償の愛に目覚めちゃって。あなたに水をかけた加納さんだったっけ。彼女なんてあなたに感銘を受けてあなたの親衛隊にも入ってるのよ。」

「・・・え?」

「ん?聞いてない?1年の笹原が発起人で、2年の真田が会長に就任したって言ってたけど。会の名前は雅会。」

「ななななんですか!?その微妙なネーミングは!?」


慌てふためく雅ちゃんはとっても可愛らしい。

晴可がちょっかい出してる気持ちがなんとなく分かってしまう。

私も雅会に入っちゃおうかしら。


「ま、そういう事だから、心置きなく晴可のそばにいてあげてね?」


私の言葉に雅ちゃんの顔が曇る。


「でも、花園先輩は晴可先輩の婚約者だって言ってましたよね?私、思うんです。晴可先輩の横にふさわしいのは私なんかじゃない。花園先輩のような人だって。」

「私のようなって?」

「綺麗で、賞賛の眼差しにも堂々と胸を張っていられるような人です。」

「そうかな。それを決めるのは晴可でしょ?」

「私には晴可先輩の隣にいる自信がありません。」

「・・・晴可って一度も自分から何かを望んだ事がないの。なんだって手に入る環境と実力を持っていながら、晴可は本気になった事がなかった。でもあなただけは別。理由なんてないんだと思う。晴可はあなただけが欲しいんだと思う。」

「・・・。」


うつむく雅ちゃん。

そう、仕方ないのよ。諦めてやって。

あの晴可が唯一本気で求めるんだから、無駄な抵抗はしない方がいい。

ああ。私も誰かにそんな風に愛されてみたい。

ちらりと雅ちゃんの顔を窺う。


ちょっと重そうだけど・・・。

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