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恋物語  作者: ゆうこ
春の頃
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急接近

翌日から会場作りは始まった。

交流会までの準備期間は10日間。

余裕はない。

会場は学園で一番広い大ホールだ。

掃除は業者が定期的に行っているので、まずするのは倉庫から丸テーブルや椅子を運び出す事だった。

私と星宮さんは何か手伝える事はないかと倉庫を覗いていた。

倉庫にはテーブルや椅子がパズルのように積み上がって山のようになっている。

これは歯が立たない。

男子たちは器用に足場を作り、順番に下へとテーブルを手渡ししていく。

倉庫から出されたテーブルを運べばいいかと一旦作業の邪魔にならないところへ移動しようと踵を返した時だった。


「私、手伝います!」


びっくり発言に驚いたのは私だけではなかったはずだ。


「え?星宮さん?なに・・!!」


振り返った私の目にむんずとテーブルの脚をつかんだ星宮さんが飛び込んできた。

テーブルの山を崩していた男子は反対側にいて、彼女を止めようがなかった。

うそ~

あっという間にバランスを崩すテーブルたち。

なにも考えているひまはなかった。

落ちてくるテーブルの下で体を強張らせる星宮さん。

反射的に彼女に駆け寄り手を伸ばすが、間に合わない!!

私の上にもテーブルが迫る。

やばい!!

頭だけでも守らねば。

両腕を上げた瞬間、ぐいっと何かに体ごと引っ張られた。

がらがらがしゃーん。

派手な音が倉庫に響き渡る。

私は?

なぜかテーブルは一つも当たらなかった。

ぎゅっとつぶった目を恐る恐る開ける。

至近距離に制服の金ボタンが見えた。

そろりそろりと視線を上げる。

制服の上には当然首と顔がつながっていて、そこには・・・。


「貴島先輩!?」

「あ~、焦った。雅ちゃん~。無謀やで~。」


へらりと笑う眼鏡男子の顔があった。

むむ!?また名前呼び。

これはやっぱり星宮さんの弊害だな。


「あっ!星宮さんは!?」


あわてて見回すが散らかったテーブルの下にそれらしき姿はない。


「姫ちゃんも大丈夫や。」


貴島先輩の視線に促されて上を見ると、倉庫の2階バルコニーに会長にお姫様だっこをされた星宮さんの姿があった。

あんな高い所にどうやって!?

しかもお姫様だっこって。


「雅ちゃん、痛いとこない?」


私の疑問は至近距離で聞こえる貴島先輩の声で吹っ飛んだ。

衝撃から立ち直ると体の感覚がよみがえってきた。

背中に回る腕の感触。

抱っこされてるのは私も一緒!?


「うわっ!!だだ大丈夫です!!すみません!!」


あわてて体を離そうとするが、あれ?立ち上がれない?

貴島先輩の腕が緩まない。


「・・・貴島先輩?」

「あ~その呼び方禁止な。」

「え!?」

「そやから、晴可って呼んでって言ったやん?」

「そ・・それは、親衛隊の方の呼び方で・・。」


確かに男子たちはこの気さくな先輩の事を晴可先輩と呼んでいた。

でも女子でそう呼べるのは彼の親衛隊に入っている人だけだ。


「なんで?いいやん。姫ちゃんもそう呼んでくれとるよ。」


無敵天然美少女と一緒にしないでほしい。


「ほら、早く。」

「・・・。」


黙っていると貴島先輩の顔が段々近寄ってきた。

まずい。

近すぎです。


「晴可って。呼んで?」


その距離は約20センチ。

背中に回された手が後退を阻んでいる。

吐息が交わりそうな距離に頭がくらくらした。

貴島先輩の顔は冗談とも本気ともわからない笑みを浮かべている。

これ以上は危険すぎる。


「はっは・・るか先輩・・。」


私の切れ切れの言葉に貴島先輩は満足げに笑った。


「じゃあ、これから貴島って呼んだらペナルティな?

10回呼んだら俺の言うことなんでも聞くんやで。」

「!?」


なんで!?

これは悪夢か!?

貴島先輩がひらひらと手を振って立ち去っていくのを茫然と見送る。


真田くんが心配そうに声をかけてくれるまで、私はそのまま座り込んでいた。

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