告白
晴可先輩に送ってもらい、寮に戻ってきた。
抱っこで移動すると言う晴可先輩の申し出は慎んでお断りしました。
その代りなのか何なのか、晴可先輩は私の部屋の前まで付いてきた。
何度も言うようですが、ここ女子寮なんだけどな。
「もうここまでにしとくわ。中に入ったら自分に自信ない。」
晴可先輩は苦笑を浮かべ、扉の前で私に向き直った。
「雅ちゃん、いい?よう聞いて?」
晴可先輩は私の肩に両手を置いて、私の顔を覗きこんだ。
ちょっと、近すぎです・・・。
体を引こうとするが軽く置いてあるはずの手がそれを阻む。
「木田は俺がちゃんとするから、雅ちゃん、絶対一人にならんといて。わかった?」
木田先輩・・・。
晴可先輩は木田先輩をどうするつもりなんだろう。
「玉紀を呼んであるから、それまで部屋の鍵はしっかりしめてな。」
「・・・木田先輩をどうするんですか?」
一瞬、晴可先輩はくちびるをぐっと引き結んだ。
「・・話つける。雅ちゃんには指一本触れさせへん。」
静かな、一本調子の口調。
でもその分押さえた怒りが伝わってくる。
途端に私は不安になる。
こんな晴可先輩を見るのは嫌だ。
晴可先輩はいつものようにへらへらと笑っていてほしい。
「先輩?もういいです。私、なんでもなかったんだから・・・。」
「雅ちゃん。」
「木田先輩も、多分晴可先輩が来るのが分かったからあんな事を・・・。」
「雅ちゃん!!」
私の声は晴可先輩に遮られた。
肩に置かれた両手が微かに震えている。
先輩は私の目をぐっと覗きこんだ。
「わかってる?雅ちゃん、殺されかけたんやで?」
「それは・・・。でも私はなんともないです。」
先輩の迫力に呑みこまれまいと、私は必死に言う。
その時、はあっと先輩は大きなため息をついてがっくり頭を下げた。
先輩の髪がさらさらと私の頬と首筋を撫でてくすぐったい。
や、やめてほしい。
「せ、先輩?」
「全っ然、わかってへん。」
低い押し殺したような声。
なんだ?
なに怒ってるんだろう。
木田先輩をかばうような事を言ったから?
でもそれは木田先輩のためじゃなくて・・・。
「わかってないやろ。俺の気持ち。」
「へ?」
先輩の気持ち?
思いもかけない言葉に首をかしげる。
先輩は顔を上げた。
その距離がさっきより近くなっているのはなぜでしょう!?
「好きな女の子を殺されかけた俺の気持ち、全然わかってない。」
え?
好きって。
え?
なに?
え・・。
「えええええええええええええええええええええええええええええええええ!!?」
私は絶叫した。
「え?なに?まさか・・・。」
そんな私を茫然と見つめる晴可先輩。
「えええええええええええええええええ!?気づいてへんだん~~~~~~!!?」
まさか。
先輩が本当に私の事を好きだったなんて・・・。
いや、好意に全然気づいてなかった訳ではない。
でも好意と言っても色々ある。
先輩が私に見せる好意は、何というかペットをかまっているようなものだと思っていた。
いや、思おうとしていた。
だってだって、まさかである。
親衛隊の制裁どころの話ではない。
学園にいられなくなってしまうではないか。
「まさか、通じてないとは思わんかった・・・。俺、結構がんばって気持ち伝えてたと思うけど・・。」
晴可先輩が茫然とつぶやいた。
「だだだだって、好きなんて一言も・・・。」
「俺としては交流会の時に伝えたつもりやったけど。・・言ってなかった?」
晴可先輩は片手で眼鏡を押さえ、考え込む。
そ、そんな前から・・・。
私は言葉を失って、ただただ目の前の人を見つめるだけ。
ふ、と晴可先輩が頬を緩めた。
「そっか。ごめん。じゃあ、やりなおしな?俺、雅ちゃんの事が好きや。俺の彼女になってくれへん?」
眼鏡の奥の瞳が限りなく優しい光を宿している。
至近距離でそんな目で見られたら・・・。
「あれ?雅ちゃん!?・・・大丈夫!?」
ごめんなさい。
今日は完全にキャパオーバーです。
無責任と呼ばれてもいい。
私は意識を手放した。