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恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
38/77

保健室

夢を見た。

高い木から落ちる夢。

ハッと目を覚ますと、白いカーテンが目に入った。


「雅ちゃん、気がついた?」


視線をずらすと晴可先輩の顔が見えた。


「せんぱい?」


なんで晴可先輩がここにいるんだろう。

ん?ここって。

寮のベッドじゃない。

ここは保健室?

晴可先輩が大きく息をついた。


「よかった。気がついて・・・。」

「私、どうして?」


なぜここで寝ているのか訳が分からず、とりあえず起きようとすると体中が酷く痛んだ。


「無理したらいかん。傷は治せても打ち身は治らん。あのな、雅ちゃん、木から落ちたのは覚えてる?」


晴可先輩が私の体を押しとどめて、ゆっくり尋ねた。

ああ、そうか。

私は木から落とされた。

木田先輩に。

私が頷くと先輩は私の頭を軽く撫でた。


「地面に落ちる前になんとか間に合ったんやけど、落ちる時に枝でケガしたんや。」


落ちる時の痛みを思い出して、私は腕を上げてみる。

なぜか体操服に着替えているが、腕に傷はなかった。

目で問うとなぜか晴可先輩は顔を赤らめた。


「・・・それは企業秘密。」

「?」

「・・・木田は去年まで生徒会の一員やったんや。でも色々あって生徒会にも顔を出さんようになって。結局、今の生徒会メンバーともけんか別れしてる。」


晴可先輩は宙に浮かせたままの私の左手をとった。

両手で包み込むように持って、先輩は私の指先にそっと唇を寄せた。

その目にはいつもの甘さではなく、苦しげな光が宿っている。


「特に俺とは色々あって、何かと嫌がらせをしてきてはいたんやけど。多分俺と雅ちゃんの事を聞いてこんなことしたんやと思う。俺のせいや。ごめんな。」

「先輩のせいじゃないです。」

「・・・なんとなく気になってて、警戒はしてたんやけど。」

「あ~。だからあんなにまとわりついてたんですか?」

「まとわりつい・・・。」


そうか。

そんな理由があったのか。

なら言ってくれればいいのに。


「それだけが理由じゃないけど・・・。」

「ごめんなさい。私が勝手な行動をしたせいです。」


私は寝たまま、晴可先輩に頭を下げた。

私がちゃんと守られていたら、こんなことにはならなかったかも知れないのに。


「雅ちゃん・・・。もう分かってるよな。俺たちのこと。」

「木田先輩から聞きました。」

「うん。ごめん。黙ってた上に巻き込んで、しかも守りきれへんなんて最低や。」


晴可先輩は大きなため息をついてがくりと頭をベッドに落とした。


「先輩、助けてくれて、ありがとう。」

「雅ちゃん・・・。」


ちょっとだけ顔を上げて私を窺う、その仕草が情けない大型犬のようで思わず痛む右手を伸ばしていた。

そおっと晴可先輩の頭を撫でる。

さらさらとした髪の感触が意外に気持ちいい。

撫でられるのも気持ちいいが撫でるのも気持ちいいんだな。

晴可先輩は視線を空に固定して固まっていた。



「あら。気がついた?」


声と共に白いカーテンがさっと引かれ、養護の先生が顔を出した。


「ん?お邪魔だった?」


どういう意味でしょう、先生。

しかも晴可先輩、顔が怖いです。


「今日はもう帰りなさい。明日も体が辛かったら休んだ方がいいわ。貴島。送ってやって。」

「はい。」

「それから今日はしっかりお風呂に入っておきなさいね。」

「?」


先生?最後のどういう意味ですか?

先輩?顔が赤いのはどうしてですか?



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