木田先輩
ここからは雅視点です。
「雅ちゃ―ん。」
「あれ?雅ちゃん、おらへんの?」
「あ、晴可先輩。それが逃げられちゃったみたいで~。」
「なんでやろ~。」
なんでって、あなたたちといると目立って仕方ないからです。
今日は危機一髪、お昼ごはんのお誘いを回避できたようだ。
私は周りを気にしながら、人気のない裏庭へと移動する。
夏休み以降、私の周りに出没する晴可先輩。
いつの頃からか、私が晴可先輩の彼女だという噂が流れた。
その噂を打ち消すべく、なるべく距離を置こうとしているのに・・・。
星宮さんの協力の元、なぜかあのメンバーに拉致られ、晴可先輩たちと昼食をとる羽目になる日が続いていた。
なんか、やたらとみんな過保護なんだなぁ。
まるで何かから私を守るみたいに・・・。
今日はなんとか彼らの網をかい潜り、私は一人になれる場所へたどり着いた。
はぁ。
静かな日々が懐かしい。
私はチョコクロワッサンにかぶりついた。
うん、美味しい。
朝と夜は寮の栄養バランス満点の食事だから、お昼くらいジャンクなものが食べたい。
一気に食べて、紙パックの飲み物をズズッと飲みほして、私は気がついた。
ここに私以外の人がいることに。
「お前、大口開けすぎだろう。」
なんだか皮肉をちりばめた視線に嫌味な口調。
この人、見たことがある?
「どうもすみません。ご迷惑だったでしょうか。」
特に相手にするつもりもないので、ぺこりと頭を下げて立ち去ろうとした。
「ちょっと待てよ。お前、貴島の彼女だろ。」
貴島の彼女・・・。
瞬間、私の頭に交流会でのワンシーンが鮮やかに甦った。
『貴島によろしくな。』
3-2木田祐真。
「彼女ではありませんが。」
私が答えると木田先輩は口を歪めて笑った。
「なに言ってる?奴の匂いをぷんぷんさせて。」
「匂い?」
不意に祥子さんの言った、マーキングという言葉が甦る。
「お前、知らないのかよ。自分が奴のエサだって。」
「エサ?」
「知らないみたいだな。じゃあ、俺たちの正体は知ってるのか?」
私は首をかしげる。
そういえば祥子さんも言ってたな。
人とはちがう能力とか。
「俺たちは人じゃねえ。人外だ。」
私はぼんやりと目の前の先輩を見ていた。
じんがい。なんだそれ。
「なんとか言ったらどうだ?お前、とろいのか?」
この木田先輩、いちいち言う事がきつい。
ちょっとくらい驚いてもいいでしょうが。
「それで、人外ってなんですか?」
私の質問に木田先輩が一瞬、毒気を抜かれたような顔をした。
「俺たちの祖先は人ではないものと交わった。それによって人以上の能力を持つようになった。この学園は基本的に人外のためのものだ。貴島も生徒会も、学園の男はほぼ全員が人外だ。」
「人ではない・・。」
「俺たち人外は気に入った人間にしるしをつける。」
「しるし?マーキング?」
「そう。知ってるじゃねえか。お前が貴島専用のエサだってしるしだ。」
「エサ!?食べるんですか!?」
「そうだ。人間なんて、しょせん俺たちのエサでしかない。」
「・・・。」
ショックだった。
私は拳を口につけて考える。
つまりクラス委員のみんなもってことだよね?
晴可先輩も真田くんも、私の事をエサだって思ってた?
いやいやいや。
ちがう。
私は彼らとひと夏過ごしたけれど、彼らはそんな素振り、ちらりとも見せなかった。
友達だって、仲間だって、そういう風に私を受け入れてくれた。
「エサだなんて、信じません。」
私は目の前の先輩を睨みつけた。
確かに人ではない、と言うのは本当かも知れない。
それはなんとなく、納得できた。
でもそれとこれとは別だ。
「真田くんは私の友達第一号だし、晴可先輩は・・・・・。」
あれ?なんだ?言葉が出てこない。
晴可先輩は私の・・・なんだろう。
出会った頃からの晴可先輩の顔が脳内でリプレイされた。
軽薄な笑顔、私をからかう顔、心配そうな顔、穏やかな笑顔、そして私の指にくちづける顔・・・。
うわっ!!!
最後のは、なし!!!
なしだから!!!
「・・・なに赤くなってんだ?」
「ととととにかく!!彼らは私をエサ扱いなんてした事ありませんから!!!!」