表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋物語  作者: ゆうこ
秋の頃
33/77

混乱

なんでこんなことに・・・。

私は茫然と晴可先輩を見ていた。

晴可先輩というより私の指にふれている、そのくちびるを。


先輩が目を上げふっと微かに笑った。

吐息が指にかかり、ぞくりと何かが全身を這い上がる。


「☆*§★▼**~~~~!!!?」


声にならない悲鳴を上げて、私は晴可先輩の手を振り払った。

取り戻した左手の指先がじんじん熱い。


「なななななんですか~~!?」


とり乱す私とは対照的に、晴可先輩は余裕の笑みを浮かべている。


「いや別に。」

「べべべべつにって・・・。」


私ははんべそ状態だ。


「まあ、強いて言えば牽制、かな。」


後は俺の満足のため?という言葉は理解不能だった。


「ややややめてください~~~。」

「なんで?とりあえず、場所はわきまえたつもりやけど。」

「場所!?」


私は我に返って周りを見回した。

そう。

ここは無人ではない。

だからこそなんの警戒もしないで勉強に集中していたのだけれど。

幸田くんが生ぬるい目でこちらを見ていた。

会長と副会長はそれぞれ机に向かって書類仕事をしていたが、その肩が細かく震えている。

もー嫌だ!!

私は涙目で晴可先輩をにらんだ。


異変は夏休み明けの2日目から起こった。

私の朝食は早い。

食堂が開く時間に行くので、一緒になるのは朝練のある運動部員が数名だ。

なのに、なんで私の目の前に晴可先輩がにこにこしているのか。


「どうしたんですか?」


私が問うと、

「夏休みはずっと雅ちゃんと一緒におれたのに、学園では離れてる時間が多すぎる。」

と言った。


私は眉を寄せた。

ここは学園だ。

別荘では許されても、ここにはここのルールがある。

いくら花園先輩と知りあいになったといっても、度を超す接触は制裁を免れない。


「先輩?」


私が咎めるような視線を送ると晴可先輩は苦笑を浮かべた。


「大丈夫。雅ちゃんが困るようなことにはならんから。」

「・・・ほんとですか?」


交流会のようなことはごめんだ。


「ほんとほんと。安心して?」


その言葉を信じた私がまだまだ甘かったという事を知るのは、それから数時間後だった。


私はクラスで一番早く登校する。

みんなが来るまでの1時間ちょっと、静かな教室で予習を兼ねて勉強をするのが習慣だった。

遠くで朝練をする声が聞こえる他は何の音もしない。

いつもと同じ静かな朝だったはずだ。

なのにまた晴可先輩が現れ、しかも当然のように私の前の空席に腰を下ろす。


「だから、なんで先輩がここにいるんですか?」

「ん~?まあ気にしやんといて。」

「朝、言いましたよね?」

「うん。大丈夫やよ。」

「じゃあなんでここにいるんですか?」

「雅ちゃんの顔が見たいから。」

「・・・。」


ダメだ。

会話が成立していない。

ため息をつくと、なぜか左手をとられた。


「跡が残ったな。」


そう言われて、左手の薬指を見る。

夏中、はめていた指輪の跡が白く残っている。

晴可先輩はそれをするりと撫でて、ため息をついた。


「すぐに消えてくな。」


しばらくして、登校する生徒の声があちらこちらで響きだし、先輩は自分の教室に戻っていった。

なんだったんだろう。

私はひとり首をひねった。


昼休み、私はいつものように売店でパンを買ってこようと席を立った。

教室を出ようとした時、するりと両腕に何かが巻き付いた。


「!?」

「雅ちゃん、今日は一緒に食堂で食べようよ。」

「なんで?私はいつもの売店で・・・。」

「まあまあ。クラス委員のみんなも朝霧さんに会いたいって言ってるし、昼休みくらいしか時間がないだろ?」


右腕に星宮さん、左腕に真田くん。

星宮さんはともかく、いつもは私の味方のはずの真田くんも強引に腕を引っ張る。

この時点で私の胸は嫌な予感で一杯になっていた。

なんとか逃げ出す機会を窺うが果たせず、食堂に引っ張り込まれる。

思った通り、そこにはクラス委員とともに生徒会の面々が揃っていた。

青褪める私は当然のように晴可先輩の隣に座らされる。

いや、だから、ここは別荘じゃないって。

周囲の視線が痛いほど刺さる。

誰かた~す~け~て~。

私の心の叫びは誰にも届かなかった。


放課後、私のエネルギーはほぼゼロになっていた。

昼休み以降、教室でも廊下でも視線が痛すぎる。

帰ろう。

いつもは図書室で勉強していくが、とにかく今日は一人になりたい。

かばんを持った時。


「雅ちゃーん、迎えに来たで~。」


私の願いはあっさり砕け散った・・・。

なぜかそのまま生徒会室に連れてこられる。


「なんで生徒会室で勉強しないといけないんですか?」

「ん~?雅ちゃん、いつも放課後は図書室で勉強しとるやろ?」

「・・・はい。」


なんで知ってる?


「でも俺生徒会の仕事もあるし、図書室に行ってると生徒会の仕事がたまるって文句言われるし、な?」


いや。な、じゃない。


「まあ、諦めてやってよ、朝霧ちゃん。君がここにいてくれると僕たちも助かるから。」


幸田くんの言葉にため息をつく。

まあ、ここなら一般生徒の目はないだけマシか。

私は諦めて鞄からノートを引っ張りだした。


そして冒頭に戻る。

誰か、ほんとたすけて・・・。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ