ガラスの指輪
雅視点に戻ります。
晴可先輩に手をひかれて花火会場までの道を歩いた。
思ったよりも沢山の人でにぎわっていて、きっとその手がなかったら、こんなに安心して露店を楽しめなかったと思う。
「思ったよりすごい人出やな。」
会場に着いたがみんなの姿は見当たらなかった。
晴可先輩は誰かに電話をかけたが繋がらないらしい。
私たちはとりあえず花火の見える場所に腰を下ろすことにした。
なんだか不思議な気分だ。
少し前まで噂を聞くだけだった人が私の隣で一緒に花火を見ている。
「あ、そうそう。」
晴可先輩は懐から何かを取り出した。
「雅ちゃん、手ぇ出して。」
何気なく手のひらを上に、両手を揃えて出した。
晴可先輩は苦笑して私の左手だけをとった。
薬指を通る金属の感触に首をかしげる。
「さっきの射的でとったやつ。虫よけに。」
それは銀色の輪っかに水色のガラス玉がついたおもちゃの指輪だった。
なんで虫よけ?
それも左手の薬指って・・・。
「ちゃんとしたのを用意するまで、他の男からもらったらあかんで。」
「・・・?それはどういう意味で・・・。」
私の言葉はスターマインの轟音にかき消された。
見事なスターマインに見惚れていたら、質問の続きをするのをすっかり忘れていた。
「なんか買ってくるわ。おなか空いたやろ?」
今日の夕飯は各自、屋台で済ませることになっていた。
ちょっと待っててな、と晴可先輩がいなくなって数分が経っただろうか。
人の気配に顔を上げる。
一瞬、はぐれた男子たちかと思ったが、全然知らない顔の男が数人立っていた。
「お姉さん、ひとり~?俺らと花火見ない~?」
その中の一番チャラそうな男が口を開いた。
「・・・。」
バカじゃないだろうか。
わざわざ浴衣を着て、一人で花火会場に来る女がいると思ってるのか。
冷めた目で見る私を無視して、男は行こう行こうと私の腕をとった。
そのとき、真夏の熱い空気がすうっと冷えたような気がした。
「!?」
一瞬引っ張られた私の腕から男の手が離れる。
男たちは私の後ろを凝視して一歩一歩後退りした。
「ごめんなさい~!!」
男たちが慌てて逃げていく。
「雅ちゃーん。ほんと一人にしとけへんわ~。なんもされへんだ?」
振り向くとなにやら沢山買い込んだ晴可先輩が困ったような顔で立っていた。
一体なにしたんですか?
先輩・・・。