お誕生会
翌日、晴可先輩の誕生パーティーが開かれた。
集まった食堂に、今までなかった顔ぶれを見つける。
「わ~。彬くんに宗春くんだ~。久しぶり!」
隣にいた星宮さんが弾んだ声を上げた。
って言うかいつの間に会長、副会長を名前呼び!?
私の驚きをよそに彼らはにこやかに手を振った。
「ようやく学園での仕事が終わりました。」
「晴可の誕生日に間に合ってよかったな。」
晴可先輩の誕生日って言ってるけど、二人の目は星宮さん一直線だ。
うーん。
へたに関わりたくない。
私はこっそり星宮さんの傍を離れた。
大きなバースデーケーキと沢山のごちそうが並び、晴可先輩の誕生パーティーが始まった。
男子たちが代わる代わるに芸を披露していく。
芸・・・。
あれを芸と言っていいのなら・・・。
でも隣に座る晴可先輩が楽しそうにしているから、まあいいのか。
晴可先輩の生まれた日。
昨日の祥子さんの話によれば、お母さんの命日でもある日。
私はちらりと晴可先輩の顔を見上げた。
楽しそうに手を叩いて喜ぶ晴可先輩。
その顔に何の翳りもない。
視線に気がついたように晴可先輩がふいっとこちらを見た。
「どしたん?大丈夫?無理してへん?」
優しく問われ、頬が熱くなる。
「だ、大丈夫です。」
きのう、泣いている私を見ても晴可先輩は理由を聞かなかった。
ただ私を心配して大きな手で頭を撫で続けてくれた。
「ご心配おかけしました。」
小さく言うと、いつものように目を細めて笑ってくれた。
とん、と晴可先輩は私の椅子の背に片肘を乗せた。
顔は芸を披露する下級生に向けたまま。
先輩の肩のラインから首が至近距離で私の目に飛び込んでくる。
触れそうで触れない距離。
体温だけが微かに伝わるようで、身じろぎもできず固まる。
先輩は私だけに聞こえる小さな声で言った。
「祥子に聞いたやろ?俺の母親の事。」
「・・・はい。」
「正直、俺は親子の情とかわからへん。親と兄弟、親戚、師匠、どれも同列程度にしか思えやん。それが悲しい事なんかさみしい事なんかわからへん。」
晴可先輩の目は後輩たちを見ているようでもあり、遠くを見ているようでもあり、何を思っているのかわからない。
「そやけど雅ちゃんがいっぱいがんばってきた事はわかるで?」
ふ、と視線を私に向ける。
ほんの少し、色素の薄い瞳に私が映っていた。
一瞬、周りの喧騒がかき消えた。
不思議な静けさの中、晴可先輩が静かに微笑んでいた。
どうしてこの人は、私の欲しいものがわかるんだろう。
それを私の欲しい時にひょいと差し出す。
なんでもない事のように。
「そうそう、今夜の花火大会、行くやろ?」
晴可先輩が急に思いついたように一旦体を引き、こちらに向き直った。
「花火大会?」
「うん。あれ?聞いてない?玉紀と姫ちゃんが浴衣がどうとか言ってたけど?」
「浴衣?」
聞いてない。
一言も聞いてないが・・・。
なんかいやな予感がするのは気のせい?
「いや~。雅ちゃんの浴衣すがたか~。さいっこうの誕生日やな~。」
にたにた笑う晴可先輩にさっき感じた何かが吹っ飛んでいく。
「あれ?なに?・・・いやいや邪な想像はしてへんよ!?なに!?その冷たい目!!」
ちょっと~と叫ぶ晴可先輩を放置して、私はごちそうに集中した。