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恋物語  作者: ゆうこ
夏の頃
26/77

お誕生会

翌日、晴可先輩の誕生パーティーが開かれた。

集まった食堂に、今までなかった顔ぶれを見つける。


「わ~。彬くんに宗春くんだ~。久しぶり!」


隣にいた星宮さんが弾んだ声を上げた。

って言うかいつの間に会長、副会長を名前呼び!?

私の驚きをよそに彼らはにこやかに手を振った。


「ようやく学園での仕事が終わりました。」

「晴可の誕生日に間に合ってよかったな。」


晴可先輩の誕生日って言ってるけど、二人の目は星宮さん一直線だ。

うーん。

へたに関わりたくない。

私はこっそり星宮さんの傍を離れた。


大きなバースデーケーキと沢山のごちそうが並び、晴可先輩の誕生パーティーが始まった。

男子たちが代わる代わるに芸を披露していく。

芸・・・。

あれを芸と言っていいのなら・・・。

でも隣に座る晴可先輩が楽しそうにしているから、まあいいのか。


晴可先輩の生まれた日。

昨日の祥子さんの話によれば、お母さんの命日でもある日。

私はちらりと晴可先輩の顔を見上げた。

楽しそうに手を叩いて喜ぶ晴可先輩。

その顔に何の翳りもない。

視線に気がついたように晴可先輩がふいっとこちらを見た。


「どしたん?大丈夫?無理してへん?」


優しく問われ、頬が熱くなる。


「だ、大丈夫です。」


きのう、泣いている私を見ても晴可先輩は理由を聞かなかった。

ただ私を心配して大きな手で頭を撫で続けてくれた。


「ご心配おかけしました。」


小さく言うと、いつものように目を細めて笑ってくれた。


とん、と晴可先輩は私の椅子の背に片肘を乗せた。

顔は芸を披露する下級生に向けたまま。

先輩の肩のラインから首が至近距離で私の目に飛び込んでくる。

触れそうで触れない距離。

体温だけが微かに伝わるようで、身じろぎもできず固まる。

先輩は私だけに聞こえる小さな声で言った。


「祥子に聞いたやろ?俺の母親の事。」

「・・・はい。」

「正直、俺は親子の情とかわからへん。親と兄弟、親戚、師匠、どれも同列程度にしか思えやん。それが悲しい事なんかさみしい事なんかわからへん。」


晴可先輩の目は後輩たちを見ているようでもあり、遠くを見ているようでもあり、何を思っているのかわからない。


「そやけど雅ちゃんがいっぱいがんばってきた事はわかるで?」


ふ、と視線を私に向ける。

ほんの少し、色素の薄い瞳に私が映っていた。

一瞬、周りの喧騒がかき消えた。

不思議な静けさの中、晴可先輩が静かに微笑んでいた。


どうしてこの人は、私の欲しいものがわかるんだろう。

それを私の欲しい時にひょいと差し出す。

なんでもない事のように。


「そうそう、今夜の花火大会、行くやろ?」


晴可先輩が急に思いついたように一旦体を引き、こちらに向き直った。


「花火大会?」

「うん。あれ?聞いてない?玉紀と姫ちゃんが浴衣がどうとか言ってたけど?」

「浴衣?」


聞いてない。

一言も聞いてないが・・・。

なんかいやな予感がするのは気のせい?


「いや~。雅ちゃんの浴衣すがたか~。さいっこうの誕生日やな~。」


にたにた笑う晴可先輩にさっき感じた何かが吹っ飛んでいく。


「あれ?なに?・・・いやいや邪な想像はしてへんよ!?なに!?その冷たい目!!」


ちょっと~と叫ぶ晴可先輩を放置して、私はごちそうに集中した。




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