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恋物語  作者: ゆうこ
夏の頃
24/77

晴可先輩のお姉さん

翌日、笹原くんに付き添われた鈴木くんが謝りに来た。

気にしていないと言うと鈴木くんは泣きそうな顔でもう一度頭を下げた。


そのあと食堂で遠泳大会のお誘いを受けたが、丁寧に断り涼しい図書室で一人ノートを広げる。

いくら遊びに来ているとはいえ、毎日の勉強は必須だ。

きのう、一昨日とサボった分は取り戻しておかないと。

花園先輩は星宮さんをお供にショッピングだ。

彼女たちは妙に気が合ったらしい。

私は一人、静かな図書室でひたすらノートを埋めていく。


「あら。お客様?」


凛とした声に顔を上げると、切れ長の美しい目をした長身の女性が近づいてきた。


「こんにちは。私は貴島祥子。晴可の姉よ。あなたは?」


そう言われれば晴可先輩によく似た華やかな印象の人だ。

私はシャープペンシルを置いて頭を下げた。


「朝霧 雅です。晴可先輩のひとつ下です。」

「ふーん。あなた、晴可のお気に入りなんだ。珍しいわね。こんなにマーキングするなんて、よっぽど執心してるのね。」

「?」


耳慣れない言葉が聞こえたのは気のせいか?


「なに勉強してるの?」


祥子さんは私の手元を覗きこんだ。


「ふーん。物理か。懐かしいな。あなた、かなり頭いいのね。進路は決めてるの?」

「一応。医者を目指してます。」

「そう。」


彼女はにっこり微笑んだ。


「私も医者よ。精神科医だけど。」


ふと花園先輩の言葉を思い出す。

一族みんな医者、そう言っていたっけ。


「職業病かも知れないけど、あなた何悩んでるの?」

「え?」


目の前でにこにこ笑う祥子さんの顔を思わず凝視する。

悩んでる?

私が?


昨日の事は極力考えないようにしていた。

態度も普段通りだと思う。

でも目の前の女性は確信に満ちた目で私を見ていた。


「・・・晴可先輩は関西弁なのに、お姉さんはちがうんですね。」


答えようがなくて見当外れの事を言ったのに祥子さんはほほ笑みを崩さなかった。


「晴可の事知りたい?」

「・・・はい。」

「晴可と私は母親がちがうんだけど。晴可の母親はあの子を産むときに亡くなってるの。」

「え?」

「晴可には人とはちがう能力があること気が付いてる?母親はそのために命を落としたの。」


人とちがう能力。

確かに神出鬼没ではあるが。

その力が原因で母親を亡くす、とはどういうことだろう。

ふ、と祥子さんは目元を緩めた。


「詳しい事はいつか晴可に聞いて。・・・で、母親がいないということもあって、生まれてすぐに晴可は関西の本家に預けられたの。だから言葉がちがうのね。」


生まれてすぐ。

晴可先輩は自分の出自をいつ知ったんだろうか。


「晴可は小さい時から知ってたわよ。自分の生い立ち。」

「・・・。」

「それからこちらには戻らず、学園の小学部入学と同時に寮に入ったから、あの子は家庭の温もりを知らない。だからかしら。あの子は他人に心を許さない。いつもへらへら笑ってるけど、決して本心は見せない。」


そうだろうか。

私の知っている晴可先輩とはイメージがつながらない。


「晴可の事どう思ってた?」

「・・・自分勝手で、強引で、どんなに壁を作ってもくっついてくる人。」

「・・・。」


一瞬、祥子さんの顔が引きつる。

我ながら、ひどい言いようだ。


「怖い?晴可のこと。」


怖い?

私は首をかしげる。


「いいえ。晴可先輩は怖くありません。」

「じゃあ、あなたは何におびえてるの?」

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