憂鬱な告白
私は鈴木くんの目を見据えて言った。
「自動車事故で、脚の神経をダメにしたのよ。」
私の言葉に一同絶句した。
重い空気。
「選手としては致命的だったけど、日常生活は問題ないのでご心配なく。さっきみたいに泳ぐこともできるし。」
ただ、何分の一秒を争う場所にはいられなくなっただけだ。
医者には運のいいことだと言われた。
「そう・・か。そんなことがあったのか。お前。あんなに速かったのに・・・。」
茫然とつぶやく鈴木くん。
なにショック受けてるの?
君が聞いたんでしょ。
「答えたくなければそれでもいいんだけど・・・。」
黙って聞いていた花園先輩が口を開いた。
「自動車事故だそうだけど、どなたが運転してたの?」
鋭いな、花園先輩。
「・・・父です。」
「それじゃあ・・・。」
「居眠り運転の車が対向車線から突っ込んで。両親は即死でした。」
ガタガタガタ!!
大きな音が入口の方で響き渡った。
「!!」
みんなの目が集まる中、きまり悪そうな晴可先輩たちが現れた。
「あ~、えーと。なんか入りにくい雰囲気で・・・。立ち聞きするつもりはなかったんやけど。」
最悪だ。
別に隠していたわけではない。
でも告白した後の空気が嫌だったのだ。
将来の夢と家族を一度に失った女の子。
笑えるくらい可哀そうな子。
案の定、プールは何とも言えない空気に包まれた。
夢を見た。
久しぶりに会う父と母は夢の中で楽しそうに笑っていた。
私が強化選手に選ばれてからなかなか実現できなかった家族旅行。
やっと家族のスケジュールが合い、海辺のホテルに予約を入れる父。
キャンセルがあって滅多にとれないホテルがとれたと父がガッツポーズをしていた。
ラッキーだね。
笑いあう私と母。
ちがう。
ラッキーなんかじゃない。
ホテルさえとれなければ、私たちは海へと続くあの道を通る事はなかったんだ。
場面が変わり、車内の風景になる。
「もうすぐ着くよ。」
父の声。
遠く輝く海の色。
あの日、あの時間、あの道。
ひとつでもちがっていたら、私は今どうしているだろう。
医療的な事に関しては素人です。
すみません。