プールの再会
プールには清らかな空気が満ちている。
独特の匂いとひやりとした空気。
花園先輩は早速優雅に泳ぎはじめた。
星宮さんはビート板とお友達になっている。
私は久しぶりにわくわくした気持ちを抑えられずにスイミングキャップをかぶった。
プールなんて二度と見たくない、と思っていたはずなのに。
この空気に体が反応するのを止められない。
私はそうっと水の中に体を滑り込ませた。
一旦深く水の中に潜る。
水中の独特の音が鼓膜を揺さぶった。
私は体を伸ばしゆっくりと泳ぎ始めた。
覚えていられないくらいターンを繰り返し、ようやく満足してプールサイドに上がる。
「すごいね~、雅ちゃん。お魚みたいだったよ。」
星宮さんが感嘆の声を上げながらタオルを渡してくれる。
しまった。
完全に周りの事を忘れていた。
「泳ぐのは得意だから。」
そう言ってチェアーで休もうとした時だった。
「朝霧・・雅?」
聞き覚えのない声に振り返ると数人の男子がプールの入口に立っていた。
つぶやいたのは笹原くんの隣に立つ男子。
実行委員ではない顔だった。
その幽霊でも見たかのような顔つきに、彼が私の事を知っているのだと思った。
「・・・。誰だっけ?」
私の返事に一瞬脱力した彼は、
「俺だよ!鈴木太郎。水泳の全国大会でも強化合宿でもいつも一緒だったろ!?」
「・・・。」
なんとなく思いだす。
名前も顔も平凡なひとつ年下の少年。
水泳の特待生で学園に来てたのか。
「お前、感じが変わってたから全然わからなかった。なんでこんなとこにいるんだ?いつの間にか顔を見なくなったけど、お前、なんで水泳やめたんだ!?」
なんでこんなところで会ってしまったんだろう。
しかも最悪のタイミングで。
私はため息をついた。
「へ~。初耳。雅ちゃんって一体何者~?」
騒ぎを聞きつけた花園先輩が私にまとわりつく。
「朝霧 雅は世界に一番近いと言われていた水泳選手だ。」
いらない説明ありがとう、鈴木くん。
「昔の話です。水泳はやめましたから。」
「だからなんでだって聞いてるんだよ!?」
「おい、鈴木?・・もういいだろ?」
笹原くんがとりなしても鈴木くんはこちらを睨みつけたまま微動だにしない。
なんだか思いだしてきた。
この鈴木太郎、しつこい性格で有名だった。
ごまかしても仕方ないし、口止め効くかなあ。
私は彼に向き直った。