バーベキュー
別荘の企画を聞いたときに、水着を持っていないからと断った私だが、
「あら~?じゃあ私がプレゼントするわ。この間、親衛隊が嫌な目に合わせちゃったお詫びに。」
と言う花園先輩に一蹴されてしまった。
その水着にパーカーを羽織って私はタープの下にいた。
私の前にはキャベツやにんじん、タコや訳のわからない魚たち。
男子たちは海の中でワイワイと何かを捕まえている。
「ごめんな。結局手伝わせて。」
隣で晴可先輩が器用に魚をさばきながら言った。
「別に切るだけですから。」
私は目の前の野菜をザクザクと切っていく。
調理班の他のメンバーは、やっぱりお肉がないと~と騒いで買い出しに行ってしまった。
タープの下には私と晴可先輩の二人だけだ。
炭はいい具合に熾きている。
「もう焼きそば、作り始めちゃっていいですか?」
確認を取り、焼きそばを作り始める。
じゅわじゅわ~と鉄板がいい音を立てる。
「?」
視線を感じて隣を見る。
「何か?」
そんなに私の焼きそば作りに不安があるのだろうか。
「あ、いや。その水着、似合うな。」
「そうですか?花園先輩に見つくろっていただいたんですが。」
「そう。よう似合う。って言うか、雅ちゃん、そのパーカー絶対脱いだらあかんで。」
「?」
どういう意味だろう。
私は視線を自分の体に落とした。
目に入るのはレモンイエローのシンプルなワンピースの水着。
何の障害もなく見える足先。
「・・・。すみません。凹凸がなくて・・・。」
「なっ!?そういう訳じゃなくて、その・・いや・・雅ちゃん、意外にスタイルいいから・・・。」
なにやらむにゃむにゃとつぶやく晴可先輩の声は野菜を放り込むじゃーっという音にかき消された。
「うおーっ。うまいっす。雅先輩!!」
「うまいぞ。朝霧!」
海から帰ってきた男子たちが大量に作った焼きそばを食らっていく。
涙を流さんばかりのその様子に半ば呆れる。
若者の食欲は偉大だ。
大量にあった焼きそばはあっという間に食べつくされ、次に彼らは肉や魚に挑んでいた。
見ているだけで胸やけがしてくる。
顔も髪も焼きそばソースの匂いがして、こころもちベタベタしている。
私は羽織っていたパーカーを脱ぎ捨て、一人海へ向かった。
海水もべたつくのは一緒だけど匂いがなくなればいい。
なにやら後ろが騒がしいので振り向くと、男子たちと晴可先輩がもめていた。
食べ物の取り合いだろうか。
まだたくさんあるだろうに。
若者の食欲は尊敬に値する。
「・・あ。パーカー脱いじゃいけなかったんだっけ?」