別荘にて
恋物語、春の頃はいかがでしたか。
今回から第2幕に入ります。
気に入っていただけるとうれしいです。
青い空の下、きらりと光る一筋の光。
「おー!!海だ~!」
貸切バスの中。
後ろの席から歓声が上がった。
「もうすぐ着くで。疲れた?」
隣に座る晴可先輩が私の顔を見て心配そうに眉をひそめた。
あ~、顔に出てたか。
「大丈夫です。」
無表情を意識して答えた。
夏休み、交流会実行委員の会場班とその友人で、晴可先輩の別荘に遊びに行くという企画が持ち上がった。
夏休みの予定は聞かれたが、参加の意思を伝えた記憶も、参加の意思を尋ねられた記憶もない。
が、その企画を耳にした時にはすでに参加メンバーに組み入れられていた。
海か・・・。
遠く光る海が嫌な思い出を運んできそうで、私は目をつむった。
晴可先輩の別荘に着くと男子たちは早速プライベートビーチへ走って行った。
元気だ。
女子では私と星宮さん、そしてなぜか晴可先輩の親衛隊長である花園先輩が参加していた。
私と星宮さんが荷物をほどいていると、花園先輩がやってきて別荘の案内をしてくれると言った。
晴可先輩の別荘は、別荘の域を大きくはみだしている。
一階には広々としたエントランスに食堂、談話室。図書室まで完備されている。
二階はプライベートスペースで客室に大浴場。
地下にはプールとジムもあるそうだ。
「広いですね~。ホテルみたい。」
ぐるりと一周して星宮さんが目を輝かせた。
「こんな素敵な別荘持ってるなんて、晴可先輩の家ってお金持ちなんですね~。」
「一族みんな、医者よ。晴可は医者になる気はないみたいだけど。」
星宮さんに艶然とした笑みを返し花園先輩が答えた。
「まあ、気ままな三男坊だしね。」
「さすが、晴可先輩の親衛隊長ですね。晴可先輩の事なんでも知ってるみたい。」
「そりゃ、ね。」
花園先輩がちらりと私を見た。
「だって私、晴可の婚約者だもの。」
さらりと言うと花園先輩は大輪の花のような笑みを浮かべた。
婚約者。
私は胸の中でつぶやく。
晴可先輩の隣に並ぶのはこんな華やかな人がふさわしい。
やっぱり私はからかわれているんだ。
先輩は自分の周りにいなかった珍しい人種の下級生をかまっているだけ。
自分の見つけた答えに安堵して、私は食堂へ行く二人の後を追った。
食事が終わり、談話室に場所を移して思い思いにくつろぐ。
そろそろ一人になりたくて席を立ちたいのだが、なぜか退路を阻むように星宮さん、晴可先輩、真田くんと次々席を詰められてしまった。
「明日はどうする?この入江は結構魚も採れるし、バーベキューでもしよかと思うんやけど。」
晴可先輩が言うと周りで歓声が上がった。
仲の良い事だ。
「あっ。雅ちゃんたちはなんにもしやんでいいよ。食材の調達もタープの設営も男手は一杯あるし。」
晴可先輩は微妙に崩れた顔で続けた。
「ただ水着でおってくれたらみんなの意気も揚がるかな~と・・。」
なんですか、そのセクハラ発言は。
冷たい視線で見ていると、星宮さんが頬を膨らませて反論した。
「ダメですよ~。婚約者の前でそんな事を言っちゃ。いくら玉紀先輩が心の広い人だからって。」
「なに?玉紀がなんて?・・・婚約者って!?」
「あら~?どうしちゃったの~、晴可。照れちゃって。」
艶然と微笑む花園先輩。
対照的に晴可先輩は異様に慌てている。
「ちょっ・・!!雅ちゃん!?信じたらあかんよ!?玉紀!なに嘘教えてんねん!!」
なんで私?
思わず首をかしげてしまう。
別に婚約者がいようといまいと私には関係ないんだけど・・・。
「あーん。晴可ったら忘れちゃったの?おっきくなったら僕のお嫁さんになってねって言ったの。」
「それは小学生の俺に玉紀が無理やり言わせたんやん!?」
必死の形相の晴可先輩を花園先輩が笑い飛ばした。
「あはははは!!あ~可笑しい。なに!?この反応のなさ!晴可~、全然相手にされてないじゃない?」
「う~~。雅ちゃん。反応しなさすぎ・・・。」
晴可先輩が微妙な顔で私をじーっと見た。
私にどんな反応を望んでいるんですか?晴可先輩。