真田信也の放課後3
静かな、でも濃密な何かに満たされた空間。
「あ~。雅ちゃん、ここにおったん~?」
一瞬にして壊すのはやっぱり晴可先輩だ。
げっとつぶやいて顔をしかめる朝霧さん。
僕はなんとなく優越感を感じる。
友達認定をもらった僕。
いやがらせ認定の晴可先輩。
今は僕が一歩リードしている。
もちろん、友達から踏み出す気持ちはないけれど。
「では僕は失礼します。」
にこにこと朝霧さんの前に立つ晴可先輩に挨拶して僕は教室を出た。
「雅ちゃん、夏休み、予定ある?」
朝霧さんを誘う気満々の晴可先輩の声が開け放した扉から聞こえてきた。
ふ、と軽いため息をつき、一歩踏み出した時、廊下の先に星宮さんの姿を見つけた。
「委員長、ご苦労さま。」
星宮さんが可憐な笑みを浮かべて近づいてきた。
「朝霧さんなら教室だよ。晴可先輩もいるけど。」
僕が言うと彼女はこてんと可愛らしい仕草で首をかしげた。
「真田くんはいいの?」
「?」
「雅ちゃんの一番近くにいるのは真田くんなのに、とって代わられちゃうよ?」
「・・・。」
「ごめんね。真田くんだけの雅ちゃんだったのに、私が学園に来たせいで。」
思いがけない言葉に僕は思わず半眼になる。
何もかもを見通しているようなその態度に心がすうっと冷えていく。
「私としたら、暴走気味の晴可先輩より真田くんの方が安心なんだけど。」
僕の冷たい視線にピクリとも動じず、星宮さんは無邪気そのものの笑みを僕に返した。
「仕方ないか。先祖がえりが本気だしたら、真田くんも命の保証ないもんね。」
「!?」
すれ違い際に小さくつぶやいて彼女は教室に入って行った。
彼女はどこまで知っている?
僕の中で星宮 姫がただの綺麗な女の子から要注意人物になった。
さっきまで満ち足りていた僕の心に暗い影が差す。
しばらく僕はその場に立ち尽くしていた。