真田信也の放課後2
それから見るとはなしに朝霧さんを見ていて気がついたことがある。
彼女は徹底して友達と一線を引いていた。
移動教室も一人、学食へ行くのも一人。
それでも敵を作らないのは要所要所でクラスの嫌がる面倒な仕事を淡々と引き受けていたからだろう。
空気のような存在。
彼女は一年間、それを徹底していた。
星宮 姫が現れるまでは。
「そう言えば僕も質問。」
「?」
「朝霧さんって、なんで友達作ろうとしないの?」
彼女は眉間にしわを寄せた。
「・・・晴可先輩にもおんなじようなこと言われたけど・・・。」
あれ、地雷踏んだ?
「一言で言えば面倒なんだよね。」
「えっ!?面倒!?」
女子高生の口から出たとは思えない言葉に驚く。
「必要ないというか。だって私一人で困ることないし、友達ってなにに必要なの?」
「・・・えーっと。」
そう言われると返す言葉に困る。
「友達って言っても他人だよね?自分以外の考えを持つ人。だから何を考えてるのかなんてわからない。いちいちそれを確認しなくちゃいけないの?私一人だったらこうだって言いきれるけど、他人がどう感じているかなんて私にはわからない。」
「深く考えすぎじゃ・・・。」
「そうかな。でも知らないうちに傷つけたり傷つけられたりするなんて嫌だし。」
そこで僕は何となくわかった。
彼女は怖がっていることに。
「友達がいてなにか傷つくようなことがあったんだ?」
「・・・。」
直球すぎたかな。
朝霧さんは僕をじいっと見ていた。
「・・・友達になるっていうことは、友達じゃなくなる時もあるでしょう?」
「確かに、下心があって近づいてくる人もいるし、そうでなくても裏切られる時もあるよね。」
「うん。何かを失くすのって、しんどいでしょ?・・・私ね、特待生でしょ?」
「うん?」
「親がいないの。」
「・・・。」
「だから早く大人になりたい。今は自分の力だけでは生きていけないから。早く自立したい。そのためには心を揺らすような不確定要素はいらないんだ。」
ああ、そうなのか。
心を閉ざすような朝霧さんの行動がなんとなく腑に落ちた。
「そっか。そうなんだ。」
「うん。・・・そうだったんだけど・・・。」
朝霧さんは窓の外を見た。
「交流会実行委員のみんなと知りあって、真田くんともこうやって話をするようになって。それを楽しいと思う自分もいて・・・。」
自分の気持ちがよくわからないんだなあ、と朝霧さんはため息をついた。
彼女は揺れているんだと思った。
「じゃあさ、とりあえず僕を友達にしてみたら?」
「え?」
朝霧さんは目をまん丸にして僕を見た。
「僕は君を裏切ったり傷つけたりしないと思う。もしそんなことがあったら、迷わず絶交してもらっていいから。友達がどんなものか僕で実験してみたら?」
「実験って・・・。」
朝霧さんは困った顔をした。
「嫌なことは嫌って言ってくれたらいいし、困ったことがあったら今日みたいに相談してくれたらいい。
そんなものだよ。友達って。」
「そんなものなの?友達って。」
うん、と僕が答えると彼女はしばらく考えて顔を上げた。
「じゃあ、私たちってもう友達なんだね。」
微かに微笑む彼女。
僕は級友から友達になれたみたいだ。
「それから、僕も分かったような事は言えないけど。
もし、友達に裏切られたとしても、朝霧さんが傷つく必要はないと思う。傷を負うべきなのは裏切った方の心だ。」
「・・・。」
ありがとう、と彼女は小さくつぶやいた。