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恋物語  作者: ゆうこ
幕間
15/77

真田信也の放課後1

いつもありがとうございます。

今回は真田くん視点でお送りします。

「質問してもいいかな。」


最近、クラス委員の仕事を手伝ってくれるようになった朝霧さんが口を開いた。

開け放した窓から遠く歓声が聞こえる。

季節は夏。

あと少しでみんなが待ちわびる夏休みだ。


「質問って?」


僕が答えると彼女は手にしたプリントを意味もなくパラパラとめくった。


「うん。あのね。交流会からずっと考えてるんだけど、なんでみんな私に花をくれたんだろう。」

「・・・。」

「晴可先輩のはね、いやがらせ・・・って言うか、からかって遊んでるんだと思うんだけど。」

「・・・。」

「実行委員の男子全員にいやがらせされるくらい嫌われてるとは思えないし。」


実際みんな親切だし、と朝霧さんはつぶやいた。

僕はなんと言っていいのか言葉に詰まる。

それにしてもこの同級生はなんで自分が好かれていると気づかないんだろう。

まるで好かれることを拒否しているようだ。


「みんな朝霧さんの事が好きなんじゃない?」

「・・・星宮さんじゃあるまいし。」


率直に言ってみたが眉をしかめて一蹴される。

ふ、と息を吐いて僕は言った。


「僕は朝霧さんの事、去年からいい子だなと思ってたよ?」

「!!」


びっくりしたように目を見張る朝霧さん。

そう、僕は一年前から彼女の事を見ていた。


受験組の朝霧さんに会ったのは新学期のこと。

誰よりも早く席に着いていた彼女は一人、本を読んでいた。

友達作りに騒がしい教室の中、彼女だけが別の空間にいるみたいだった。

初めて彼女と会話を交わしたのは、去年の交流会の頃だ。

なぜか当然のようにクラス委員になった僕は、交流会の準備とクラス委員の仕事で手一杯の状況だった。

その日も集めたプリントを職員室に運び、会場作りに行こうとしていたら、ふと黒板の文字が消されていないことに気がついた。

日直、忘れたな。

僕は自分でも珍しく舌打ちをした。

うちのクラスの担任はこういうことにうるさい。

日直が罰を受けるくらいなら放っておくが、何かと連帯責任を負わせたがる担任にクラス委員として何を言われるかわからない。

いらだたしく思いながら僕は持っていたプリントを机に置いて、黒板に向かった。

その時、偶然教室に入ってきた朝霧さんがするりと僕のつかもうとしていた黒板消しを手に取った。


「ごめん。私消し忘れるとこだった。」


彼女はすいすいと黒板の文字を消していく。

でも僕の記憶によれば、今日彼女は日直ではなかったはずだ。


「真田くん、クラス委員ご苦労さまだね。」


気がつくと黒板消しを戻した彼女が静かにこちらを見ていた。


「あ、いや。」

「そのプリント、職員室に運ぶの?」


朝霧さんは机の上のプリントを見て言った。


「うん。」

「私でよければ持っていこうか?図書室へ行く途中だから。」


整った容姿のおかげで女の子から親切にされることは多い。

でも彼女の申し出には何の媚も押しつけがましさもなかった。


「あ、迷惑だった?ごめん。」


無言の僕に朝霧さんは気を悪くした様子もなく教室を出ていこうとした。


「あ、いや、そうじゃなくて。頼めるかな?これ。」


僕が言うと朝霧さんはわかった、とプリントを手にとった。


「じゃ、交流会準備、がんばってね。」


朝霧さんは教室を出ていった。

僕は茫然とその後ろ姿を見送っていた。

他の女の子のように頬を染めることも、愛想笑いすらもない会話。

でも朝霧雅という女の子が僕の心の何かに触れたこの日を僕は絶対忘れない。

なぜだかそう思っていた。

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