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恋物語  作者: ゆうこ
春の頃
14/77

小さなおねがい

はっくしょんっ。

部屋に戻った途端、盛大なくしゃみが出る。

と同時に悪寒に体が震えた。

まずいな~。

ただでさえ連日の準備で疲れている所にゆうべの夜なべがあり、心理的疲労を食らった後の水攻撃。

私の胸にカラータイマーが付いていたら確実に点滅状態だろう。

制服は手洗い可能でよかった。

水も泥水ではなかったし。

さすがお嬢様はいじめも上品だ。

朦朧とする頭でささっと制服を洗い、パジャマに着替えてベッドに潜り込んだ。

寒い・・・。

ああ、懐かしい感覚だ。

昔、熱を出した時を思い出す。

寒い寒いと震えていると、そのうち汗が出てきて熱くてたまらなくなる。

最後に熱を出した時は母がいて、あれこれ世話を焼いてくれたっけ。

そんなことを考えているうちに私は眠りに落ちていった。



「・・・雅ちゃん?」


微かな声にうっすら目を開ける。

だからなんで女子寮にあなたがいるんですか?


「大丈夫?何か欲しいものない?」


晴可先輩の大きな手が私の額に乗せられる。

ひんやりと気持ちいい。


「まだ熱いな。これ、飲める?飲めたら解熱剤使えるんやけど。」


晴可先輩はスポーツドリンクのペットボトルを掲げた。

私が小さくうなづくと、背中に手を回して起こしてくれる。

なんだかつきたてのおもちにでもなった気分だ。

全然体に力が入らない。

ぐんにゃりした体を晴可先輩にもたれさせて口元に運んでもらった飲み物を一口飲む。


「ごめんな、雅ちゃん。全部俺のミスや。初めに親衛隊に話つけとかないかんだのに。浮かれて雅ちゃんこんな目に合わせて・・・。」


晴可先輩の声が胸にくっつけた頭から振動と共に伝わってくる。

なんだろう。

まるで小さい子供に戻って、父のひざの上にいるような懐かしい感じ。

包み込まれる安心感。

無事、解熱剤を飲んだ私は壊れ物のようにそうっとベッドに戻された。

晴可先輩の手が私の頭をゆっくりと撫でる。


「今、何時ですか?」


枕元の小さな灯りはついているがカーテンは引かれている。


「夜中や。姫ちゃんもちょっと前まで看病してたんやけど、疲れてたんやろな。うたた寝してたからベッドに運んだところ。」


見上げる晴可先輩の目が眼鏡の奥で優しげに細められた。

星宮さんにまで心配をかけてしまったか。

目を伏せる私に優しく微笑んで、晴可先輩は頭を撫で続ける。


「雅ちゃん、顔に出さんから。普通の女の子があんな生活してて体に負担がない訳ない。気がついてやれんでごめんな。ゆっくり休み?」


ああ、気持ちいい。

私は目をつむった。


「でも先輩も疲れてるでしょう?休んでください。」


ナデナデの誘惑には抗いがたいが、晴可先輩だって私以上に疲れているはずだ。


「なんで?俺は平気やよ。それとも一人の方がゆっくり眠れる?」

「・・・。」


私はゆっくり目を開けて晴可先輩の顔を見た。

小首をかしげて優しく微笑む先輩。

少しだけ。

弱ってるんだから少しだけ甘えてもバチは当たらないよね?


「じゃあ・・・、眠るまで頭を撫でてもらってもいいですか?」


そう言った時の晴可先輩の顔に浮かんだ満面の笑み。

あれ?

なんかまずかった?

先輩の温かい手を感じながら、私は考えるのを放棄した。



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