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恋物語  作者: ゆうこ
春の頃
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貴島晴可のひとりごと2

手配班と会場班、二つに分かれた会場班の方に彼女たちの姿があった。

女子は汚れ仕事を嫌がる。

だから大抵電話一本かけたら済む手配班に入る。

あとは交流会で使う紙の花を作りつつ、休憩だと言ってはお菓子を食べ、おしゃべりに興じる。

そんな女の子のおもりは無理なので、俺は率先して会場班を仕切る。

めんどくさい事は会長と副会長に一任しておくに限る。


彼女たちに手配班に行かなくていいのか尋ねると、砂糖菓子少女から嬉しい答えが返ってきて、久々にまともな女の子と会えたことに思わず頬が緩む。

名前を尋ねると星宮 姫、と名乗った。

星宮。聞いたことがある。加護持ちか。

もう一人の彼女はいない振りを貫こうとしていたが、あっさり姫ちゃんに名前を暴露されていた。

雅ちゃんか。

なんかこの交流会楽しくなりそうやん。


準備初日、会場に向かう俺の隣を桐生が歩いていた。

こっちが何も言ってないのに、


「とりあえず会場の様子を把握するのは会長の役目だろう。」


と開き直った目をして言った。

こいつとはガキの頃からの付き合いで、外見にたがわず竹を割ったような性格の男だ。

だから物事を曖昧なままにしておくのを嫌う。

会場の下見なんて口実で、姫ちゃんの事が気になって仕方ないんやろ。

かく言う俺も彼女たちが気になって、例年なら後半しか顔を出さへん会場にいそいそと向かってるんやけど・・・。


会場に足を踏み入れた瞬間、空気がぐらりと揺れるのを感じた。

一瞬、桐生と目が合う。

次の瞬間、俺たちは持てるパワーを解き放っていた。

がらがらがしゃーん。

派手な音を立ててテーブルが体の上に降り注いだ。

体中の筋肉を硬化してそれをやり過ごす。

俺の腕の中で思ったより華奢な体が微かに震えていた。


じっと固まっていた雅ちゃんがそろりそろりと顔を上げる。

ぱちり、と目が合った。

数秒、俺の顔を凝視した雅ちゃんの目がみるみる大きくなる。

おお、こんな顔もするんや。


「貴島先輩!!」

「あ~、焦った。雅ちゃん、無謀やで~。」


心から安堵の声が漏れた。

むっと眉をしかめる雅ちゃん。

名前呼びが気に入らないらしい。

だがすぐにハッとした顔になり、姫ちゃんの姿を探す。

なんや必死やな。

二人の間に明確な温度差があるのには気づいていたが、姫ちゃんを助けるための無謀な行動といい今の表情といい、意外に熱い子なのかも知れない。

俺の視線に姫ちゃんの無事を確認した雅ちゃんは、ようやく自分の置かれた状況に気がついた様子でいきなり体を強張らせた。


「雅ちゃん?どこも痛いとこない?」


と問うと急に両腕を突っ張った。


「うわっ!!だだ大丈夫です!!すみません!!」


そう叫んで俺の腕から抜け出そうとする。

むっ。なんか許せへん。

俺は腕に力を込めてそれを阻止した。


「貴島先輩!?」


むー。それも気に入らん。

突如、俺の頭に神が降臨した。

思わず頬が緩む。


「あー。その呼び方禁止な。」


雅ちゃんは訳が分からないという顔をする。

なんや、この子よく見ると表情豊かやん。


「そやから晴可って呼んでって言ったやん。」

「そ・・それは親衛隊の方が呼ぶ・・・。」


雅ちゃんの顔がみるみる渋いものになっていく。

そんなに名前呼びが嫌なんか。

男子には名前で呼ばれることが多い俺だが、女子で晴可と呼ぶのは主に親衛隊に限られる。

だがそんな誰が作ったか分からない決まりなど知ったことか。

頑なに口を結んだ雅ちゃんを見ていたらなんだか無性に苛めたくなってきた。


「ほら早く」


言いながら顔を近づける。

もちろん腕は緩めない。


「晴可って呼んで?」


あ~。このまま言わんでもいいかな~と思っているととうとう雅ちゃんの可愛い唇が動いた。


「はっは・・るか先輩・・。」


やった。

頬を染めて必死で目を逸らす雅ちゃんを見てなぜか達成感で一杯になった。

後々考えると、俺はこの瞬間雅ちゃんに落ちたんやと思う。


「じゃあ今度貴島って呼んだらペナルティな。」


と勝手な約束をして雅ちゃんを解放した。

俺の頭は完全にお花畑状態だった。

これから当然起こるであろう事に対して打つべき手をすっかり忘れるくらいに・・・。



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