バレンタインデー・トワイライト
え〜、久しぶりに短編でも書こうかなと・・・。
お楽しみいただければ幸いです。
「なぁ〜、良子〜?俺に渡すもんないー?」
「はぁ?なんで、私があなたに渡すものあるのよ!」
それもそうだ、いきなり渡すものない?と聞かれてなにか渡す奴などいない。
だが、今日は違った―。
そう、こういうセリフが出てもいいくらいに。
「今日は、ほら…、あれじゃないか…」
もぞもぞと話す少年。
「なによー、悠希はいっつもそうやってはっきりしないわね!」
その言葉に、悠希は鋭く反応した。
「ふ…ふん!なんでもないよ!先行くからな!」
そういって少年は足早に学校に駆けていった。
「チョコが欲しいなら、そう…言いなさいよ。素直じゃないんだから…」
遠くを見るように、良子は行った。
そう、今日は何を隠そうバレンタイン。
日本全国で行われる熾烈なラブゲーム。その日。
何故、日本全国かというと外国では好きな人にチョコなどあげないからであったり。
親しい人同士でカードを交換する程度なのだ。
つくづく、日本人の恋愛に対する姿勢に感心されられるものである。
「おいっ、遥飛! なんだよ、その髪型! バレンタイン当日におしゃれしても意味ないぞ!」
「馬鹿、違うよ! 俺はいつもこうだったって!」
「嘘付け!昨日まで寝起きのままで『男は髪型など気にするな、親友』とか言って、寝癖のままだったじゃないかよ!なんで、ワックスつけてんだよ!しかも格好いいっ!」
「ふ、ふん…。そ、そんな事言ったっけな…。 っていうか、格好いいってなんだよ!結局、妬みか!」
悠希は、親友の遥飛と朝から髪形についてあれこれ言いあっていた。
本当に男とは呆れた者である。
「いいじゃねぇかよー、なんだかんだいいつつ結局二人は毎年もらうだろー!俺達なんか…」
遥飛とぐだぐだやっているとクラスのみんながやってきた。いわゆる、モテないグループの人たちだが。どうやら、今年ももらえないらしい。ちなみに、なんだかんだ言いつつ俺達二人は、毎年ある程度はもらっているのだが。
「羨ましいか〜?悔しかったら頑張ってみろ!」
と、悪態をつけ俺はその場を離れた。どうやら、俺の変わりに遥飛がかれらの愚痴を放つ対象になったらしい。後ろから、俺を呼ぶ声がするが気にしないでおこう。
「悠希くん〜、はいチョコ!」
「おぅ、毎年悪いな!ありがと!」
「いいよ〜、今年も宜しくねぇ。じゃあ!」
ふぅ…今年もまずまずかな…。一つ、二つ…五つか。あいつは、どうしたかな。
「おぅ!親友!どうだった?」
噂をすれば(してないが)何とやら。遥飛からやってきた。先程、放置したことは気にしてない様子だったので、此方から触れるのはやめておく。
「俺は五つ、お前は?」
「俺と同じんかよ〜!引き分けな!」
おいおい、チョコの量を勝負に使うなよ。
「もらった愛の量では俺のかちな!それと、俺、今日忙しいから先帰るから」
そう言って俺はその場から離れようとした。
「こら、どさくさにまぎれて何言って……ん?」
そういいかけた遥飛の背中に涙を流してしがみつく男が。先程のモテないグループの一人である。どうやら、今年は初めて一つもらえたらしい。その嬉しさを遥飛に延々と語り始めたので、僕は、この時のみこいつらに感謝してその場を去った。
小さな友情が芽生えた。
さっきから良子が俺の近くをうろうろしてるんだが、どこに行った?なんか、用でもあるんか?
まさかチョコでもくれるとか…?
いや、それはないか。
朝あんなに拒否してたし。
俺は、校内を少しキョロキョロ見回した後、帰ることにした。
下駄箱で靴を履いて、昇降口を出ると入り口で一人で座ってる良子を見つけた。
もう下校時間は過ぎてるので周りに人はいない。
「おい、良子!こんなところで何してるんだよ?」
僕に気づくと良子は、急に慌てて手から何かを落とした。
よく見ても見なくても、それは明らかにチョコだった。
「ん、そのチョコどうしたんだ?誰かにあげるのか?」
「べ、別に!あげたい人いたけど渡し損ねたのよ!あ、あんたは可愛い子にたくさんもらってるからいらないでしょ!!」
急に顔を赤らめ、良子は早口に言い切った。
俺は彼女に近付いて言った。
「何言ってるんだよ!そんなの俺がもらうわけにはいかないだろ!早くその人の所に渡しに行けよ」
良子は彼の言葉を聞くと、ショックを受けたように一瞬身震いしてから、目元に涙を溜めた。
「馬鹿…、何言ってるのよ…。本当は気付いてるんでしょ…」
良子の声は小さくて、俺にはうまく聞き取れなかった。
「良子、何言って…」
「私が好きなのは、あんたよ!このチョコを渡そうと思ったのもあんた!でも、あんたが、女の子にはみんな笑顔でチョコをもらうから!私は…」
俺の声は良子によってかき消された。
俺は、彼女にそっと近付き言った。
「ごめんな…。無神経で…。俺からも言いたい事がある…」
「何よ…今更。チョコの自慢なら聞きたくないわよ…」
良子は、俺から目をそらした。
「俺もお前が好きだ。お前からのチョコをずっと待っていた」
偽りのない言葉。俺は彼女を抱きしめて言った。
彼女は突然のことに戸惑ってるようだったが、まんざらでもないようだった。
「馬鹿…」
彼女は静かにそうつぶやいた。
夕陽がちょうど出てきて僕らを照らした。
その色はチョコレートより、遥かに明るい色だったけど、今の僕らにはちょうどいいバレンタインデー・トワイライトだった。
お読みいただき有難うございました☆
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