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慰謝料は10億円  作者: SYK
4/6

4    電話

      





ボスン・・・

ベッドの上に、纏めた髪の毛を解いた遥が倒れこんだ。帰ってくるまでの道中、どこをどう通ってきたのか、覚えてない。まあ、無事に帰ってきたのだから、よしとしよう。

「・・・・・・・・な・・・なんだったの・・・・・?」

一年分の疲れが、どっと凝縮されたような1日であった。思わず、「どっきりカメラ?」とさえ思えてくるが、芸能人でもない遥に、である。

「・・・・・・・・どうして・・・私・・・なの・・・・・?」

ワンルームでも広い部屋であった。ロフトまで付いている。駅から遠いのが難点ではあるが、この物件としては安い方である。会社から福利厚生費で家賃の半分(上限10万まで)を補助として支給されていた。

――――――そんな、目立つ行動とってたのか?

今までの自分の社内での軌跡を辿る。確かに、周りの女性陣とはちと毛色が違うのは認めよう。だが、それがあの会長の目に止まるとは、どうしても思えない。

遥は、退社までの事を思い出す。

退社するまで、一宏は一言も声を掛けるどころか、目線も合わせてこなかった。

「・・・・・・・・まあ、嫌なのは解るけど・・・少しくらい話しても・・・」

と思うが、「何を話せと?」である。仕事以外では全く話さなかった彼とである。

ごろんと仰向けになる。

「・・・・・・・一体・・・どうなるの・・・?」

まるで重労働したように、身体が重たかった。神経もかなり参っていた。それなのに、眠気が来ない。神経が高ぶりすぎて、返って睡魔が遠ざかっているのであろう。

ぼうっと見なれた白い天井を、どことはなしに見ていた。

携帯電話が鳴った。曲はドラマのテーマ曲。どうも歌が入っているのは症に合わなかった。「誰だろう?」と標示を見るが、番号だけであった。知っている相手には必ず名前を付けていた。番号だけには決して出ない。電話をベッドの隅へとほおった。だが、その電話はずうっと鳴っていた。あまりにものしつこさに、「ああ!もう!!」雄叫びを上げて、嫌々出た。

「はい」

名前は名乗らない。だが、不機嫌さが滲み出ている。この声なら、悪戯電話なら、切るだろう。

「《この携帯番号は津田 遥さんのでしょうか?》」

遥の声とは反対に、向こうは、静かで落ち着いた声というよりは、無機質的な声。どこかで聞いた事のあるようなないような声。

「そうですが、どちら様ですか?」

用心する。

「《夜分遅く申し訳御座いません。鈴木です》」

寝転がって電話に出ていた遥は、飛び上がった。

「あ、お疲れ様です」

思わず、正座をしてしまい、咄嗟に毎度お馴染みのセリフを吐いてしまった。

「《御疲れ様です。土曜日そちらの御実家に午後1時頃に御挨拶に伺います。》」

「はあ?」

突拍子もない声を上げ、慌てて口元に手を置く。

――――――――やっぱり?やっぱり??

どうしても、信じられないでいた。額に手を置く。髪が、手の甲を包み込む。

「《では、そういう事で》」

「ちょ、ちょっと!!待って!!」

「《何か?》」

「あ、あの、母の都合も聞かないと!」

「《主任の御母様の御都合も会長が御伺いしていたようです。問題はありません。では》」

「ちょ、ちょっと!!」

「《何か?》」

どこか、嫌そうで面倒くさそうな声である。

「そ、その鈴木君は嫌じゃないの!?」

「《・・・・・・・・・・昼間の会長の態度を見たでしょう。私に拒否権はありません》」

どうして、そんな解りきった事を訊いて来るんだ、といいたげな嫌そうな声。

―――――――――確かに・・・

「《会長も申した通り、結婚してさっさと離婚して慰謝料を貰って下さい。戸籍は汚れますが、仕方ないと諦めて下さい。では》」

「ちょ、ちょっと!!」

「《まだ、何か?》」

本当に嫌そうな声。まるで、遥がこの結婚話を企てた風に加害者に浴びせるような声に捉えてしまう。

―――――――――こっちだって被害者だっつーのよ!!

ムカツク。

「君は結婚についてどう思っているの?」

「《今話さないといけませんか?》」

又又ムカツク。

「直済むでしょう?聞きたいわ」

遥は髪を掻き揚げた。

「《結婚に何の意味があるのでしょうか。好き同士で結婚しても離婚します。愛情がなくても結婚する例は幾らでもあります。結婚しても会長のように愛人を作り子供を作る。ただ単に紙の上での契約です》」

開いた口が塞がらなかった。

――――――――冷めてる。

それ以外、言葉は思い浮かばなかった。

―――――――まあ、自分もそうだが・・・

「《では》」

電話が切られた。

暫く呆然としていた。

―――――――こんな冷血漢と結婚するの・・・?仮にだけど・・・

そう思ってくると、段々、腹が立ってきた。思わず枕を拳で叩いた。埃が舞う。

すると、又掛かってきた。この呼び出し音は、母であった。

「《遥!!お前何したの!?》」

耳を劈く母の厚子の声。思わず携帯電話を耳から離した。厚子の声が耳の中だけでなく頭全体で、ぐわんぐわんと木霊する。

「どうしたの?」

と聞かなくても大体解るが。

「《会社の人から電話があって、『今度の土曜日に伺いますって』って一方的に。貴女何か不正でもしたの!?》」

厚子は、切羽詰った声であった。狼狽が目に見えている。

―――――――まあ・・・そう思うわな・・・

遥は頭に手を置いて、哀れな自分を愁うるように、深い溜息をつく。

「何もしてないよ。まあ、土曜日になれば解るし・・・」

「《何よ!言いなさいよ!!》」

―――――――今言ったら、お母さん逃げるんじゃないかな・・・?

「私も解らない・・・から、まあ、部屋の掃除してて」

「《まあ、するけど・・・何なの?》」

母親の心情を察するなら、催促されても仕方ないが。

「こっちが聞きたい・・・」

と言っておこう。頭を抱えて肩を落とし、又大きな溜息をつく。

それに、未だに信じられない。明日になれば、「あれは無かった事にして下さい」「夢でも見ているんですか?」なんて言って来る可能性も大いに有り得るのでは、と思ってしまう。

母を何とか宥めすかして、電話を切った後、

「鈴木君、自分のお父さんの事【会長】って言ってたな・・・」

あの会長室での光景が脳裏に浮かんだ。

他人以上に他人の振る舞い。その中には、嫌悪と憎しみが混ざっていた。

―――――――彼も複雑なんだな・・・

「でも、ムカツク!!」

又枕を拳で叩く。埃が舞った。






【4      終】



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