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慰謝料は10億円  作者: SYK
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2   晴天の霹靂 (2)

二人は総務部から出て、下階にある第5会議室へと行く為にエレベーターホールへと向かう。エレベーターに行くまでの廊下の窓から、外が窺える。梅雨のこの時期、今朝から曇りがちだったが、いつの間にか降ってた。室内に居た時には気づかなかった。ここ数日は晴天をお目にかかった事がない。本日の降水確率は90%であった。外の風景が歪んで見える。外に出れば、むっとするような蒸し暑さなのだろう。オフィス内にいると冷房が利き、その不快指数とは無縁である。

エレベーターへと乗り込む。エレベーターの中でも沈黙であった。でも別段遥は何とも思わない。一宏も正面を向いたままであった。遥も女性としては高い方ではあるが、180cm以上あろうほどの長身の一宏。それだけで威圧感がある。

彼の前回の部署での評判は遥の耳にも届いていた。それはこの総務部でもそうであった。彼の歯に衣着せぬ発言は時々というよりも毎回驚かされる。今の日本の若手社員にはない積極さに、周りはおろか部長までも驚き、大変買っていた。流石世界屈指の商社の一戦で働いていただけはある。仕事をこなすのも早く、一人で3.4人分は働いているのではないかと思うほどであった。その分、同僚とのコミュニケーションが聊か不足している風でもあった。

エレベーターを降り、第5会議室へと向かう。受け付け嬢に呼ばれた旨を伝えると、「第15会議室へ行ってください」と言われた。遥は「?」である。が顔には出さず「解りました」と又エレベーターに乗り今度は上階にある15会議室へと向かった。一宏は総務部から出てから一言も口を開いていなかった。

第15会議室へ行くと、そこの受け付け嬢が内線を掛けた。「津田主任、御代わり下さい」と受話器を渡され、「?」と思いながらもそれを受け取った。

「はい、お電話替わりました。総務部の津田ですが」

「《村瀬だ。返事だけでいいから。今から言う事は復唱しないように》」

―――――――村瀬?

遥は目を瞬かせた。年配の重いが明朗な声であった。思い当たる上司の検討がつかない。一瞬思考が逡巡し、目を剥いた。

日頃、滅多にお目にかかれない専務の声であった。年末年始の挨拶でテレビ越しに聞く声。直接聞いた事のない、社内広報誌か株主総会でしかお目に掛かれない、正に天の声であった。

「はい」

―――――――なんだろう?違う人かな?

専務が、一介の社員に直接言葉をかけるなど、あり得ない。

「《済まないがそのまま会長室へと行ってくれたまえ。最上階だ。鈴木君と一緒に。内密に》」

――――――――会長室!?

一瞬、「聞き間違い?」と思ってしまう。だが、確認の為の復唱は出来ない。

「・・・解りました」

―――――――何なの?

遥は心臓の鼓動が聊か早くなる。

―――――――私何かした?

悪い方向に思考が行ってしまう。だが、思い当たる節がない。

―――――――でも、鈴木君もなんて・・・

「何か?」

一宏は、様子がおかしい遥に声をかけた。総務部から出て初めてである。が、その面は能面のように無表情である。

「あ、何でも、付いて来て」

受付嬢がいる為、変な事は言えない。受話器を戻し、会釈して、その場を歩き出す。又エレベーターに乗る。

勤めて7年目になるが、そんな聖域足を踏み入れたことなどない。それはこの自社ビルに勤務している1%にも満たない人達だけが行ける場所である。

遥は悩みながら、最上階のボタンを押した。が、ボタンが光らない。「あれ?」何回も押すが光らない。「故障?」と思った時、遥よりも大きな綺麗な指が現れた。その指にはカードが挟まれていた。それを、カード差し込み口へと入れ、最上階のボタンを押した。最上階のボタンが光り、上昇しだした。遥はその一連の動作を、彼女には珍しくぽかんとしながら見ていた。一般社員はそこにカード差し込む口があること事態知らされていないだろう。その一人が遥である。まるでセキュリティ万全のホテルのようである。

遥の視線に気づいたのか

「会長室ですよね?」

さも当然のような頭上から抑揚のない言葉が降りてきた。遥は慌てて頷いた。

――――――――って、どうしてあんたが知ってるの!?って、そのカードは何なのよ!!?

思わずそう訊きそうになったのを、ぐっと堪えた。

チン エレベーターが開いた。開いた瞬間、遥が息を飲んだ。そこは遥が知っているどの階とも全く違っていた。ホテルのフロアのように、「ここ会社?」と思わずにはいられない程の空間が広がっていた。壁には億単位の絵画が幾つも飾られ、高級調度品も飾られている。赤絨毯に足を踏み入れる。一瞬「沈んだ」と思うほどの長い毛の絨毯。こんな歩き心地のいい絨毯など遥は知らない。仕事場では、紺の制服に合う濃紺のクールなヒールスニーカーを履いている。そのあまりにも不釣合いな靴で歩いていいのかと、足が震える。エレベーターの直横に受付嬢と警備員が二人も居た。

「お待ちしておりました。会長がお待ちで御座います。どうぞ、そのままお進み下さいませ」

ホテルの美人受付嬢のような慇懃な挨拶をされる。

―――――――――・・・・・・・会長?

会長室に行けとは言われたが、直接その本人に会うなど、誰がそう思うであろう。

霧坂グループの頂点に立つ 霧坂きりさか 繁太郎しげたろうである。御年86歳。 丁稚奉公から一代にして日本屈指、いや世界の大企業にまで伸し上った傑物である。社内広報誌か株主総会でしかお眼にかかる程度でしか知らない。専務が雲の上の人物なら、会長は、正に、大気圏外の人物である。

目の前にある重厚は扉が、果てしなく彼方にあるように見える。

――――――――何!?何!?

と思考が目まぐるしく走っていた。戸惑っている遥の横を「行きますよ」と一宏が小さな声で言った。遥が頭上の一宏を見上げた。「貴方何か知っているの?」と訊きそうになったが、その彼女を無視して一宏は歩き出した。慌てて遥はついてく。

その扉の横にも受付嬢とここにも警備員が2名も居た。「一体何人いるの?」と聞きたくなってしまう。受付嬢がにっこりとし「おまちしておりました」の言葉に、「あんた見てたでしょう?」と突っ込みたくなった。受付嬢は内線で「お見えになりました」と報告した後立ち上がり、重厚な扉をノックした。受付嬢は「失礼いたします」と扉を開けた。そして、遥と一宏を中へと案内した。「失礼致します」「失礼します」それぞれ挨拶をし、中へと入る。「峰岸君。お茶はいらない。誰も入れるな」と会長である繁太郎の、ずっしりとした声が聞こえた。「解りました」受付嬢は一礼して出て行った。巨大な一枚ガラスの向こうには歪んだ東京の街並が見渡せた。中もホテルのような重厚な内装。その窓辺には巨大なプレジデントデスク。そこに座っていた、まるで仙人のような白髪の長い髪と和服姿の並の老人とは写真では伺い知れなかった桁違いのオーラとも言うべき威圧感が滲み出ていた人物が立ちあがった。まるで映画やドラマに出てくる政治の黒幕のような人物。表面上は柔和だが、その双眸の奥には、鋭利な眼光を放っていた。それに圧倒され遥は腰が引けそうになった。流石、天下の霧坂商事の会長と言ったところか。





【2     終】



上手くなりたいので、酷評でもいいんのでご意見お願いします。

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