1 晴天の霹靂 (1)
「津田君、人手が足りないそうだ。今から第5会議室に鈴木君と行ってくれ」
かかってきた内線を切った総務部の、頭髪が半分以上後退しダルマのような体躯の部長が少し声を張り上げて言った。
「はい」
津田 遥は立ち上がった。長い髪を団子状に纏めヘアピンで止めたこの総務部の主任。同じ部署の鈴木 一宏も返事をして同じく立ち上がった。縁なし眼鏡を掛けた青年である。
日本屈指の総合商社の霧坂商事。滅多な事では中途採用しないグループを統括する本社に、今年2月に中途採用された。新卒しか採用しない霧坂商事では、稀有な存在である。
それには訳があった。
「ねーねー、今度入って来た鈴木さんってすっごい人なんですよ!!」
と情報通の女子の話によると、
東大合格後、直にアメリカに渡米し、ハーバード大学経済学入学。HBS(ハーバード・ビジネス・スクール)へ進み、MBA(経営学修士)取得。卒業後、ウォール街で世界有数の商社で勤めていたとか。ビジネスという名の戦場の最前線で働いていた彼を、ヘッドハンティング。【出世頭筆頭】であった。幹部候補生なのだろうか、最初は営業部に配属され、先月、この総務部に配置換えされた。
上の考えだとこのまま各部署を回されるのであろう。
「もうね、営業部に居た女の子達が挙って彼に猛アタックしたけど、全然振りむかなかったんですって!!」
彼がこの総務部に来るという情報を耳にした女子社員達は、もうてんやわんやの大騒ぎであった。そして、彼が配属されるや否や、告白合戦が始まった。一部の女子は化粧が濃くなり、香水も変わったほどである。彼の出社時刻に合わせて出勤。いつもは残業など皆無なのが、わざわざ残業して、彼に接近、待ち伏せ、メール攻撃等、中には彼氏がいる者や既婚者までいたほどであった。(火遊び?)遥は傍から見ていて、笑いを堪えるのに必至であった。遥は「仕事さえしてくれれば、どうでもいい」的であった。確かにイケメンとは思うが、どこか他人を寄せ付けない雰囲気を醸し出していた。それに、「まあ、私なんて眼中にないでしょう」であった。遥自身も「男に興味ありません」的オーラを全面に押し出していたのであった。入社当時は、言い寄ってくる男もいたが、事々に蹴散らしていた。周りからは、「男嫌い」と噂が立ち、それが周囲の認識になっていた。
そうこうしている内に、三十路はとっくに過ぎた。
だが、別段本人は、気にしていない。
「鈴木君、行きましょう」
「はい」
周りの女子は「羨ましい~」と嫉妬と渇望を遥に攻撃するような視線を放っていた。「あのね?仕事なんだけど?」と周りの女子に言いたかった。遥にしてみれば、「手伝いなんて他の子でいいんじゃないの?」である。主任である彼女には仕事がかなりある。
感想が欲しくて、ここに登録致しました。
褒める部分などないと思いますので、酷評でも構いません。正直な感想をお願い致します。




