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音色

作者: みかん
掲載日:2026/04/17

外では車の排気音と唸り声のような風の音。灰色の天井を指でなぞりながら、好きな曲をずっとリピートしている。

僕は高校3年生。部活は3年間バスケットと軽音をやっている。3年間で両立は難しいのだと気づいたのが先月からなのだ。

僕らも進級し最高学年になった中、新入生が入学してきた。毎年その時期になると新入生歓迎会が近くなる。

軽音部ではエレキギターをメインで活動している。新入生歓迎会では大きな見せ場になるため練習に励んでいるのを、バスケ部の顧問、メンバーにはよく思われなかったみたいだった。曲の練習に明け暮れていたので、バスケに行く頻度が減ってとうとう「お前次から来ないようだったら、全国予選で使わないからな」と言われてしまった。

勿論、バスケも大好きだ。しかし、イベントが近いのだから仕方ないだろうと自分に言い聞かせてしまったせいか、バスケには行かずにそのまま新入生歓迎会を迎えた。

披露した曲は大成功だった。今までの練習では良く言えば十人十色という感じだったのだが、バンドで合わせるにはそうはいかない。リハーサルまではギリギリ揃っていたかいなかったか…が、その成功もあって体験入部には20人以上の新入生が見学に来てくれた。

「ここにいるのみんな1年生?!多すぎでしょ!君も1年?」「はい!新歓での発表で見学したいなって思いました!」「そうなんだ!ありがとう!!部室の準備するから待ってて!」大きなスピーカーを担ぎながら急いで準備を終わらせた。

ドラマーの高木は相変わらず片付けと準備を手伝わない。

「お前も少しは手伝え。ドラマーならドラム運べよ、これ重いんだから」「まあそんな日もある笑。がんばれー!ファイト!」こんなにもありがたくない応援をするのは高木ぐらいだろう。

「部長ーこいつになんか言ってやってくださいよ、マジで何もしてないんですよ」「ちゃんとしっかりやらないとー高木くん、1年生たくさん待ってるから、ね?」柳瀬部長は責任感はあるが、人を動かすのは得意ではない。

機材の片付けが終わり、廊下では1年生が待ちくたびれている。どうしたらいいかとりあえず話し合う。

「とりあえずみんないっぺんに体験するのは難しいから、さっきの曲また披露する?」「そうしようか」「えーまたやるの?なんかくどくない?」「俺はどっちでもいい」ベースの小田はいつも無愛想。「さっさとやろう、早く帰りたいし興味無い」「お!小田もやりたくないか!じゃあ帰ろ!」「やらないとは言ってない。早く演奏の準備しろ高木」「んだよやればいいんだろ?」

そういいつつもみんな演奏中はノリノリだった。

「お疲れ様!1年生も盛り上がってたね!」「やっぱ俺のハートに響かせるドラムに惚れちゃったか」「お前って面倒くさがりなくせにドラムだけは上手いよな」「おい小田それはどういうことだ?!」「高木って黙ってればイケメンなのにな」「な!お前まで!」「みんな、片付けを…」

次の日、軽音部は休みなので、バスケ部へ行くことにした。久しぶりのバスケなのでワクワクしていた。足元で鳴る甲高い音、響き渡る部員の練習中の声、身近だったが久々のこの感覚に胸が高鳴った。「集合!!」「はい!!!」山根副部長はとても熱血だ。部長はと言うと、「おつかれ〜もう始まってるー?」「遅いですよ!部長!何をやっているんですか!!」責任感もなく、頼りがいのない部長なのだ。「わりいわりい、戸田と連れションー」「戸田まで…集合の時間過ぎてるぞ」僕は早くボールを突きたくてしかたがない。

練習をしばらく続けていると顧問がやってきた。「こんにちは!!!!」と図太い男の声たちが空間を揺らがす。「続けてて」その一言だけ言ってパイプ椅子に座った。諸田先生はいつもどおり眉間に皺を寄せて切り裂くような目つきでこちらを見ている。

練習が一区切りつき、「集合!!」「はい!!」

「これから新入生を交えて試合をする。スタメンチームはビブスを着て」「はい!」「他はちょうどいいバランスでチームを分けるから身長順に並べ」「はい!」

久しぶりに着るビブスの着心地はいつもより窮屈なのを感じた。

「ヘイ!パス!」久々に試合でボールを触った。「あっ、」惜しくも簡単なシュートを外してしまった。「今までサボり気味になってたつけが回ったな…」その後も、ボールはネットを揺らすことはなかった。

「集合」顧問がいつもとは違う声で全員を呼ぶ。「試合お疲れ様!楽しんでもらえたかな?今週中は体験できるので是非お友達も連れてきてね!じゃあ1年生は解散!」「はい!」

初めての友達と過ごしている1年生はとても初々しかった。

「はい、じゃあミーティング。」「はい!」「まずはお疲れ様。だがあれをいい試合だと思ってる奴は居ないだろうな?点は取られなかっただけましだ。得点率が低すぎる。簡単なシュートぐらいは決めろよ。以上、解散。」「お疲れ様でした!」久々の部活は何も起きずに終わった。そう思っていた。「武田、お前少し残れ」「あ、はい」なぜ呼ばれたかはなんとなくわかっていた。「お前最近、軽音部楽しいらしいな?」「新歓の為に少しバスケが疎かになってました。すみません」「謝れとは言ってない、ただ、部活には来ないとなると今度の試合、お前は使わない。それだけは言っておく。」「わかりました。失礼致します。」ただの嫌味だけかよと言いかけたがさすがに度胸はなかった。

着替えている時戸田が俺に言った。「お前さ、バスケと軽音どっちか選べよ、この前お前がいないせいで試合負けたんだからな」「ごめん、、けどもう新歓終わったからまたバスケ戻るよ」

「いやそうじゃなくてさ、休日はなんで来られないんだよ、てか毎日来なきゃ意味ねぇだろいい加減にしろ」「俺だってやりたいことはやりたいさ。けど休日はバイトで忙しくて、」「どっちが優先なんだよ、てかお前あれだよな?最近加藤さんと付き合ってんだろ?嘘ついてんじゃねぇよ、どうせデートとかだろ?ふざけんなよ」「何だよその噂、最近よく一緒にいるけど付き合ってなんかないよ」「どうかな、裏切り者は信用ならね。じゃあな」「おいちょっと待てよ!」

「ガチャン!!」戸田からの一言とありもしない噂で動揺してしまった。「なんなんだよあいつ、そこまで言わなくてもいいだろ。何も知らないくせに。てか、俺が加藤さんと付き合ってる?!なんだよその噂!!加藤さんにも知られてたらどうしよう、、」「ピロリン」携帯の着信が部室で鳴り響いた。「ねえ、友達から聞いたんだけど、私と武田くんが付き合ってるってみんなに言ってる?加藤さん勘違いされてるよって言われてさ」「いや?俺はそんなこと誰にも言ってないよ?」「なら良かった。あと明日なんだけど、予定できちゃったからモール行くの別日にしよ。」「あー、うん。わかった。別日ね」完全に嫌われた気がする。この一瞬だけで築き上げてきたものが壊れた気がしていた。

「バスケでは完全に使えないやつ、加藤さんには嫌われた。こんなにも苦痛な休日ってないよな。」そう考えていたら気づけば朝。「なんにもやる気が出ない。人間関係も必履修科目にしとけよ。なんか泣ける映画でもないかな。」「祐介ー仕事行ってくるね」「うん」

家では僕1人。何をしようが自由。泣ける映画で調べて出てきたものを1本見た。「なんだよ、失恋系かよ。見る映画ミスったわ」「ピロリン」その通知は同じバスケ部の小太郎からだった。「おーい生きてるか?昨日は帰りボーッとしてて様子がおかしかったからさ、」「あー、うん、」「なんかあった?俺で良ければ聞くぜ」「実はさ、最近いいことがないんだ。なんだろう何もかも上手くいかないんだ。」自分でもわかる、小太郎には声が震えて聞こえていることを。「辛かったな、そのなんだ?加藤さんとの噂もあって、辛かったな、今日はとりあえず泣いて、お前のいつも聞いてる曲を聴いて落ち着けって。」「ああ、そうするよ。今日はゆっくりインスタでも見てるよ。」「そうしな、じゃあ俺はバイトだから切るぞ、なんかあったらLINEしろよな。」「ツー」こんなにも心優しい友がいるのになんで俺はこういう時ほど自分から頼ろうとしないのか、不甲斐なかった。

外では車の排気音と唸る風の音、好きな曲を何十回もリピートしている。「はあ、今の俺ってすごくダサいよな。」そういいながらインスタを開く。全て同じくりかえし、だが加藤さんのノートを見つけた。そのノートにはまさに僕が聞いている好きな曲を流していたのだ。その曲は少し前におすすめした曲のひとつだったのだ。自分の押し殺す鳴き声で曲が上手く聞こえなかった。乾いた涙袋を擦りながらもLINEでつい、「おはよ!この前おすすめした曲聴いてくれてたんだね!」と送ってしまった。意外にも返信が早かった。「うん!すごく気に入っちゃってさ!最近毎日聞いてる!」「僕この曲すごく好きだから凄く嬉しい!」「良かった!じゃあこれから予定だからまたね!次予定分かったら教える!」「わかった!行ってらっしゃい!」外の世界の音はいつもより響いているのに、いつもより違って聞こえていた。たったそれだけで今日は少しだけいい日になれたと思った。今日も同じ曲をいつもより多く聞いている。その日、僕の好きな曲は大好きな曲になった。

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