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バグ検証実況者、VRMMOのバグを検証していたら隠し職業《システムブレイカー》になりました  作者: もりのなか


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第9話:最初のボス

 1.「推奨レベル」という名の虚構


 セントラル・ゲートの北門から徒歩で30分。初心者たちがスライムや野犬を相手にレベル上げに励む「静謐の草原」を通り抜け、カイトが辿り着いたのは、切り立った崖の麓に口を開ける巨大な横穴――「黒鉄の廃坑」だった。


 その入口には、仰々しい警告の立て看板と、進入を阻むための堅牢な鉄柵が設置されている。システムが提示する『推奨レベル:30以上』という真っ赤なホログラムが、侵入者に対して無言の圧力をかけていた。


「……ここだね。サービス開始初日に、最も効率よく運営の想定を破壊できる場所」


 カイトは、手にした錆びた短剣の重さを確かめながら、静かに独り言をこぼした。彼の視界の端では、配信の同時接続者数が1500人を突破し、コメント欄が激流のように流れている。


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【検証】最新VRMMO『EFO』にバグがあるか調べてみた【1日目】 同接数:1,542人


[名無しさん1]: おいおい、マジでここに来たのか!?

[名無しさん2]: 黒鉄の廃坑……。先行組の廃人ギルドでもまだ入り口だぞ。

[名無しさん3]: カイト、お前レベル1だろ! 骸骨兵に小突かれただけでデスペナだぞwww

[名無しさん1]: 推奨レベル30って書いてあるのが見えないのか?

[名無しさん4]: レベル足りないってレベルじゃねーぞ。死に戻り確定。

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「みんな、レベルという数値に縛られすぎだよ。RPGの歴史において、レベルとは仕様通りの手順で攻略するための免罪符に過ぎない。……でも、この世界はAIが管理するリアルな物理演算で動いているんだ。だったら、システムが用意した門を通る必要なんて、どこにもないじゃないか」


 カイトは、鉄柵の脇にある岩肌に歩み寄った。そこには、岩と柵の支柱が重なり合う物理的な境界線が存在していた。


「いいかい。コードオメガは、この鉄柵を通行不可オブジェクトとして定義している。でも、柵を固定している岩肌のポリゴンは、地形生成AIが自動で作ったものだ。……この二つが交差する座標には、わずかな判定の重複が発生している」


 カイトの瞳の奥で、左手首のアーク・コア(エラー品)が投影するデバッググリッドが明滅した。彼の目には、鉄柵と岩の間にある数学的な裂け目が、真っ赤なノイズとなってはっきりと見えていた。



 2.ダンジョンスキップ


「検証項目:バグ01『壁判定消失バグ』の応用。……行こうか」


 カイトは、推奨レベル30の警告ホログラムを平然と突き抜け、岩壁に向かって踏み込んだ。

 1歩、2歩。

 全力のダッシュから、特定のフレームでの跳躍。

 衝突の瞬間にメニュー画面を呼び出し、座標の更新を一瞬だけ遅延させる。


 シュン。


 抵抗感はゼロだった。

 カイトの体は、冷たい鉄柵と硬い岩肌の隙間をすり抜け、本来は鍵を持った高レベルパーティーしか入れないはずの坑道内へと、音もなく侵入した。


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[名無しさん2]: は???

[名無しさん1]: 柵、無視しやがった……。

[名無しさん3]: 鍵とかフラグとか全部無視かよwww

[名無しさん4]: これがダンジョンスキップ……マジで壁抜けを実戦で使いやがった。

[名無しさん2]: 運営仕事しろ! 鉄柵の意味がないぞ!

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「運営さんは仕事をしているよ。ただ、彼らの作ったAIが優秀すぎて、隙間を埋めることよりも世界をリアルタイムに維持することを優先しちゃっただけさ」


 カイトは、暗い坑道を迷いなく進んでいく。

 時折、物陰からレベル30超えのスケルトンや巨大蜘蛛が姿を現すが、カイトはそれらと戦うつもりは毛頭なかった。


「戦う必要なんてない。敵AIの視界レイキャストは、障害物を透過できない。……なら、壁の中に半分だけ埋まりながら移動すれば、僕は彼らにとって存在しないノイズと同じなんだよ」


 カイトは、壁の当たり判定の端をなぞるように歩く。時折、バグを利用して身体を岩壁に半分ほど埋没させながら進むその姿は、視聴者の目には幽霊か、あるいはシステムそのものを侵食するウイルスのように映っていた。


「さあ、見えてきたね。この廃坑の最深部……守護者が眠る場所だ」



 3.守護者の目覚め


 坑道の突き当たり。そこには、禍々しい魔力のオーラを放つ巨大な石扉が鎮座していた。

 扉の周囲には、プレイヤーを排除するための無数のトラップ魔法陣が敷き詰められていたが、カイトはそれらを物理演算の隙間を通ることで難なく回避した。


 そして。

 カイトが扉の向こう側へ壁抜けで侵入した瞬間、広い空洞の中央で、巨大な影が揺らめいた。


 『黒鉄の守護者・ガラム』。

 全身を重厚な魔導アーマーで包んだ、このダンジョンのボスである。レベルは35。現在のカイトとのレベル差は、実質的に一撃でも触れれば死亡という絶望的な格差を意味していた。


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[名無しさん1]: きたあああボス戦!!

[名無しさん3]: でもこれ、どうやって勝つんだよ。攻撃一発耐えられないだろ。

[名無しさん4]: レベル1 vs レベル35。バグがあっても無理ゲーだろ。

[名無しさん2]: カイト、逃げ道はないぞ! 壁抜けしてもボス部屋は密閉空間だ!

[名無しさん1]: 同接2000突破! 伝説の無謀配信が始まるぞwww

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 重厚な金属音が響き、守護者がその巨大なメイスを持ち上げる。

 カイトは、迫りくる死を前にして、狂気すら感じさせる落ち着きで短剣を構えた。


「みんな、勘違いしないでほしい。僕は勝てない勝負はしないんだ。……このゲームが、物理演算で動いているという仕様を信じているからね」


 カイトの視界の中で、守護者のメイスから放たれる攻撃判定の赤いヒットボックスが、激しいノイズとともに視覚化された。


「検証開始。……さて、この完璧な世界が一撃で壊れる瞬間を見せようか」


 守護者が咆哮を上げ、地面を叩き割るような一撃を振り下ろす――。

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