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バグ検証実況者、VRMMOの仕様を壊す  作者: くま


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5/15

第5話:初めてのバズ

 1.「未定義」という名の果実


 石壁の裏側、開発用バッファ領域に放置された金色の宝箱。その中から現れたのは、ファンタジー世界にはおよそ似つかわしくない、激しいデジタルノイズを放つ「黒いキューブ」だった。

 カイトがそれに指を触れると、視界に警告メッセージが重なるように躍り出る。


【警告:未定義のデータ(Null)にアクセスしました】

【警告:アイテムプロトコルが解決できません。強制的に装備しますか?】


「……完全なゲームの中に存在する、定義不可能なデータ。これこそが、AI『コードオメガ』が処理を諦めて、このゴミ箱に放り込んだ世界の綻びそのものだね」


 カイトは躊躇わなかった。普通のプレイヤーならデータ破損を恐れて即座に運営へ報告するか、アイテムを捨てるだろう。だが、バグ検証マニアである彼にとって、これほど魅力的な果実は他にない。


「検証にリスクは付きものだ。……装備」


 カイトが選択を確定した瞬間、黒いキューブは砕け散り、彼の左手首に黒い靄のようなノイズとなってまとわりついた。


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【検証】最新VRMMO『EFO』にバグがあるか調べてみた【1日目】 同接数:54人


[名無しさん1]: おいマジで装備しやがった……。

[名無しさん2]: 画面が! 配信画面がノイズでバグってるぞ!

[名無しさん3]: この配信やばい。今までのVRMMO実況で一番不気味だ。

[名無しさん1]: 待て、SNSで今のクリップが万単位で拡散されてる。

[名無しさん2]: 「壁抜けの果てに禁断のアイテムを見つけた男」ってタイトルでトレンド入りしてるぞwww

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「……ほう。これは壮観だね」


 カイトの視界は、もはやゲームではなくなっていた。

 左手首に装備されたアーク・コア(エラー品)の影響か、視覚情報の描画プロトコルがバグを引き起こし、世界の裏側の数値がレイヤーとなって重なっているのだ。


 遠くに見えるセントラル・ゲートの防壁には、物理演算の境界を示す青いグリッド線が走り、地面にはAIが演算を省略している領域が赤く塗り潰されている。さらに、自身のステータス画面を開くと、そこには本来表示されるはずのない「メモリ使用量」や「同期遅延レイテンシ」といった生々しい開発用数値が明滅していた。



 2.拡散する「異常」


 この時、カイトはまだ気づいていなかった。

 自分の配信が、かつてないスピードでバズを引き起こしていることに。


 視聴者の一人が切り抜いた「壁をすり抜けて虚無の世界を歩くカイト」の動画は、SNSで数万件のシェアを記録していた。

「EFOは完璧じゃなかったのか?」

「この実況者、どうやってシステムを突破したんだ?」

「運営の嘘を暴いた英雄か、それともただのチーターか」


 さまざまな憶測が飛び交い、それまで数人しかいなかったコメント欄は、秒単位で新しい書き込みに埋め尽くされていく。


「みんな、この黒いノイズが見えるかい? これはバグじゃない。……いや、厳密にはバグなんだけど、運営が『存在しない』と断言したことで、逆に仕様の隙間として固定されてしまった世界の欠片なんだ。この装備のおかげで、僕には世界の脆弱性が視覚化されて見えるようになった」


 カイトは、自分の手を見つめる。

 指先を動かすたびに、空間の描画が僅かに遅れ、残像トレイルが引かれる。


「AIは完璧に世界を生成しようとする。でも、処理が追いつかない部分は、こうして無理やりなかったことにしてバッファに溜め込む。……神代ディレクター。君のAIは、少し整理整頓が苦手なようだね」


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[名無しさん2]: 解説がガチすぎて草。

[名無しさん1]: 同接100突破!

[名無しさん3]: 運営見てるかー! 今すぐこいつを止めないと、ゲームの神秘性が死ぬぞwww

[名無しさん2]: でもこれ、めちゃくちゃワクワクする。誰も知らない世界を見てる感じがする。

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 3.初めてのバズと「戦いの予感」


 配信画面の同接数は、ついに150人を突破した。

 底辺実況者だったカイトにとって、これは夢のような数字――であるはずだったが、彼の冷静さは微塵も揺るがない。むしろ、増え続ける視聴者の視線を検証の証人として利用することしか考えていなかった。


「さて、このバグ視覚を使って、まずは元の世界へ戻ろうか。壁を抜ける座標の穴は、裏側から見るとより鮮明に見える」


 カイトが青いグリッド線の集中する歪みに向かって歩き出したその時。

 彼の視界に、これまでとは全く異なる、重々しいシステム通知が割り込んできた。


【緊急通知:システム管理権限による強制的なログの取得を開始します】

【対象プレイヤーID:カイト】

【警告:不審なデータ通信を確認。AI管理システム『コードオメガ』に報告済み……】


「……ほう。ようやくお目覚めかな、運営さん」


 カイトの口元に、不敵な笑みが浮かぶ。

 配信画面では視聴者が「BANか!?」「運営きたああ!」と狂喜乱舞している。


「いいよ。監視するならすればいい。その代わり……僕がこの世界を壊していく様を、一番特等席で見せてあげるよ」


 カイトが再び壁を抜け、セントラル・ゲートの路地裏へと舞い戻った瞬間。

 彼のバズは、もはやSNSの話題を通り越し、アーク・コードを揺るがす巨大な嵐へと変わり始めていた。

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