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バグ検証実況者、VRMMOのバグを検証していたら隠し職業《システムブレイカー》になりました  作者: くま


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13/21

第13話:スキル倍率バグ

 1.極寒の地での「脆弱性」


 『北限の霊峰』。

 標高4,000メートルを超えるその山頂付近は、吹き荒ぶ猛吹雪とマイナス30度を下回る極低温が支配する、文字通りの死地である。

 本来であればレベル60以上の高レベルプレイヤーが、重厚な耐寒装備と上位魔法による保護を幾重にも重ねてようやく到達できるエリアだ。そこに、薄汚れた初期装備の麻の服を一枚纏っただけのレベル1のプレイヤーが、場違いなほど平然と立っている。


「……寒いね。でも、この寒さというデバフも、物理演算の一部に過ぎないんだ」


 カイトは、凍えそうになる自身の身体に視線を落とした。

 彼のアバターの指先は凍傷のエフェクトで青白く変色し、HPバーは環境ダメージによって断続的に減少を続けている。だが、カイトの視界には、そのダメージを示す赤いゲージの減衰率と、それを相殺しようとするAI管理システム『コードオメガ』の「整合性チェック」のログが、ノイズ混じりに映り込んでいた。


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【検証】最新VRMMO『EFO』にバグがあるか調べてみた【1日目・深夜】 同接数:3,104人


[名無しさん1]: 画面が真っ白で何も見えねえwww

[名無しさん2]: なあ、カイト。お前のHPゲージがさっきからドット単位で削れてるぞ。

[名無しさん3]: 凍死する前に検証始めろよ! 同接3100人が見てるんだぞ!

[名無しさん1]: 高速ワープ(バグ18)の次は雪山登山か。盛りだくさんだな。

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「慌てないで。……今、この場所でしか確認できない仕様の穴があるんだ」


 カイトの視線の先、猛吹雪の向こうから山を凝縮したような巨大な影が姿を現した。

 全身が永久氷穴の蒼氷で構成された巨獣――『フロスト・ギガース』。レベル62。

 その巨体が地面を踏みしめるたびに、霊峰全体が物理演算の限界を告げるような鈍い震動に包まれる。通常、初心者がこのモンスターの視界に入れば、一秒と経たずに氷像へと変えられ、サーバーの藻屑となるだろう。


「このモンスターの防御力は、物理攻撃を99パーセントカットする設定になっている。……でも、99パーセントカットされるなら、残りの1パーセントを一億倍にすればいいだけだよね」



 2.計算の重複スタック


 カイトは錆びた短剣を抜き放ち、左手首のアーク・コア(エラー品)を起動させた。

 視界には、巨大なフロスト・ギガースの全身を包む物理演算の装甲レイヤーが、幾何学的な青い格子となって表示されている。その格子が重なり合う結節点に、演算の負荷が集中しているのが見て取れた。


「検証項目:バグ02『ダメージ倍率スタックバグ』の極限利用」


 カイトは巨大な敵に向かって、一切の迷いなく雪を蹴った。


「みんな、スキルの説明文をよく読んでほしい。初期スキル『パワー・スラスト』の効果は、攻撃力の1.5倍。……通常、この1.5倍という計算は、スキルが終了した瞬間にリセットされる。……でも、コードオメガは処理の高速化のために、計算結果を一時キャッシュに保持しているんだ」


 カイトは敵の巨大な足元に潜り込み、スキルを発動させた。


 パワー・スラスト。


 短剣が氷の皮膚に触れる直前、カイトはメニュー画面をコンマ秒で開閉し、同時に次のショートカットキーを叩き込んだ。


「スキル発動の直前に別の入力を割り込ませる。すると、システムは前のスキルの倍率計算を破棄する前に、新しいスキルの倍率を上書きしてしまう。……結果として、1.5倍に1.5倍が掛かる。これを20回繰り返せば、どうなると思う?」


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[名無しさん2]: 1.5の20乗……?

[名無しさん1]: ざっと3325倍か。

[名無しさん3]: 待て、カイトの手元が残像で見えないぞ!

[名無しさん4]: メニュー画面の開閉音が「ガガガガガ」って鳴ってて草www

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 カイトの指先は、フルダイブ下の思考加速を利用して、人間業とは思えない精度でメニューとスキル入力を繰り返していた。


 1.5倍……2.25倍……3.37倍……5.06倍……。


 計算が重複するたびに、カイトの持つ短剣が白から青、そして禍々しい黒へと、放たれるノイズの色を変えていく。アーク・コードの物理エンジンが、たった一振りの武器に集中する異常なエネルギー定数を処理しきれず、空間そのものが軋み、悲鳴を上げている。


「20回スタック完了。……倍率、約3,325倍」



 3.「数」の暴力


「……行くよ」


 カイトが短剣をフロスト・ギガースの足首にそっと置いた。

 それは、攻撃というよりも、システムの不備を指摘するような静かな接触だった。


 次の瞬間。


 ズドォォォォォォン!!!


 霊峰の頂に、雷鳴のような爆発音が響き渡った。

 フロスト・ギガースの巨大な脚が、まるで高圧洗浄機で打たれた氷細工のように、一瞬で粉々に粉砕されたのだ。爆風が猛吹雪を強引に押し戻し、一時的に視界が開ける。


 敵の頭上に表示されたダメージ数値は、システム上の表示枠を容易く突き抜け、画面外、虚空の彼方まで伸びていた。


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[名無しさん1]: !?!?!?

[名無しさん2]: 嘘だろ……足が一瞬で消えた……。

[名無しさん3]: 数値がカンストして文字化けしてるぞwww

[名無しさん4]: 数値おかしい……レベル1がレベル60をワンパン……。

[名無しさん1]: 同接3200突破! 運営、今すぐプラグ抜いたほうがいいぞ!

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 崩れ落ちる巨獣を冷ややかに見下ろしながら、カイトは短剣に付着した青い氷の欠片を振り払った。

 彼の視界には、これまでとは比較にならないほど激しい、真っ赤なシステムエラーが明滅している。


【緊急警告:物理演算のオーバーフローを検知】

【警告:不自然なダメージ倍率の累積。対象の座標を凍結しますか? [Yes/No]】

【エラー:管理者権限の競合が発生。AI管理システム『コードオメガ』が干渉を遮断しました】


「……おや。運営の干渉を、AIが止めた? 面白いね。どうやらこの世界そのものが、僕の検証を求めているらしい」


 カイトは、崩壊していくフロスト・ギガースの背後にある、吹雪に隠された「未実装領域の入り口」……テクスチャの貼られていない灰色の断層を指差した。


「3,200人のみんな、見ててくれ。……この倍率バグを使えば、本来なら何ヶ月もかかるはずの攻略を、今日一日で終わらせられる。神代ディレクター、君の作った完璧な世界は、たったひとつの掛け算のミスで、ここまでの脆弱性を露呈させるんだ」


 カイトの瞳には、かつて底辺実況者だった頃の陰りはない。

 あるのは、世界最大の仕様を解体していく、解析者としての純粋な愉悦だけだった。


(描写不足分の追加:カイトが巨獣の死体からドロップしたアイテムを拾い上げる。それは『極寒の核』という本来の素材ではなく、またしてもノイズの混じった黒い情報の塊だった。彼がそれに触れると、文字化けしていたステータス画面がさらに激しく明滅し、レベル表記が「1」から「Error」へと固定される。周囲の猛吹雪は止まないが、カイトの周囲だけは空間が歪み、雪の結晶が静止していた。彼は歩き出す。一歩ごとに、足元の雪がデジタルノイズとなって消えていく。3,200人の視聴者が息を呑む中、カイトは灰色の断層、すなわち開発者だけが立ち入ることを許された領域へと、その身を投じた。背後で、運営による強制シャットダウンのカウントダウンが始まったが、カイトはそれを鼻で笑い、さらなる深淵へと足を踏み入れた。「時間がないね。……急いで、この世界の核を暴きに行こうか」)

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