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バグ検証実況者、VRMMOのバグを検証していたら隠し職業《システムブレイカー》になりました  作者: くま


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第11話:ユニーク職業の兆候

 1.静寂と「異物」のドロップ


 『黒鉄の守護者・ガラム』がポリゴンの塵となって消滅した後のボス部屋には、耳が痛くなるほどの静寂が広がっていた。レベル35の守護者を、レベル1の初心者が「バグ」によって屠る。それは、開発者の神代レイジですら予測できなかった事態が引き起こされた瞬間だった。


 カイトは荒い息を吐きながら、自身の左手首に纏わりつく黒いノイズを見つめた。それは先ほどボスの核を貫き、膨大な演算エラーを吸い込んだことで、さらに濃度を増しているように見えた。


「……ふぅ。理論上は可能だと思ってたけど、実際にやるとなると神経を使うね」


 カイトがそう呟いた瞬間、視界の端にある配信ウィンドウが、これまでにない速度で更新され始めた。


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【検証】最新VRMMO『EFO』にバグがあるか調べてみた【1日目】 同接数:2,642人


[名無しさん1]: 倒した……。本当に倒しやがった……。

[名無しさん2]: なあ、今の「数万ダメージ」って何だよ。レベル1の短剣だぞ!?

[名無しさん3]: 運営見てるかー!! 歴史が壊れる音がしたぞwww

[名無しさん1]: 同接2600突破! おい、これガチで伝説の配信になるぞ。

[名無しさん4]: カイト、お前の足元! 何かドロップしてるぞ!

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 視聴者の指摘通り、ボスの消滅した中心点には、通常のドロップアイテムとは明らかに異なる「異物」が浮かんでいた。それは本来のドロップ品であるはずの魔導アーマーの破片やゴールドではなく、激しいデジタルノイズを放ち、周囲の空間を不規則に歪ませている半透明の結晶体だった。


「……これは、アイテムじゃない。データの『残骸』だね」


 カイトがその結晶体に手を伸ばそうとした時、視界全体が真っ赤なシステムメッセージに覆い尽くされた。


【警告:異常プレイ(Abnormal Play)を検知しました】

【システムメッセージ:物理演算エンジンの許容範囲を超える数値を検知。ログを隔離します】

【管理者通知:AI管理システム『コードオメガ』による強制整合性チェックを開始……】


「ほう、異常プレイ検知か。神代ディレクターの『完璧なゲーム』が、僕という不具合をようやく認識したわけだ」


 カイトは不敵に笑った。普通ならアカウント停止を恐れて逃げ出す場面だが、彼はむしろその警告を勲章のように受け止めていた。



 2.ステータス表示破壊(バグ20)


 警告メッセージが消えた後、カイトは自身のステータス画面を開いた。そこには、目を疑うような光景が広がっていた。


「みんな、これを見て。……僕のステータス、何かがおかしい」


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 名前:カイト

 レベル:1

 職業:[文字化け]

 HP:120 / 120

 MP:[NaN] / [NaN]

 攻撃力:[計算中...]

 防御力:-1,280(エラー)

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 これが資料にあるバグ20「ステータス表示破壊」の兆候だった。ボスのHPを遥かに上回るダメージを「バグ02」で算出した際、ダメージ計算が変数(データの器)の上限を突破し、システム側でカイトのステータスを正しく定義できなくなっているのだ。


「MPが『NaN(非数)』になってる。防御力に至ってはマイナスだ。……物理演算の隙間を突いて、ありえない数値を流し込んだ結果、僕のアバターデータそのものが仕様の境界線を超えてしまったんだね」


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[名無しさん2]: ステータス画面が死んでるwww

[名無しさん1]: 防御力マイナスって、触られただけで即死するんじゃねーか?

[名無しさん3]: 職業欄が文字化けしてるぞ。これ、バグでバグ職に転職したのか?

[名無しさん4]: 「システム・ブレイカー」とかいう厨二病っぽい名前に見えなくもない……。

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 カイトは、文字化けした職業欄の深層に、薄っすらと「System」という文字列が浮かび上がっているのに気づいた。これは後に、世界に一人しか存在しないユニーク職業『システム・ブレイカー』へと繋がる、決定的な兆候だった。


「今のところ、僕はまだ職業なし扱いのはず。でも、コードオメガは僕の行動ログから、既存のどの職業にも当てはまらない新しい定義を生成しようとしている。……AI生成型ゲームならではの挙動だね」



 3.運営側の焦燥と神代レイジの決断


 一方、同時刻のネクサスゲームズ本社の監視ルームでは、オペレーターたちの叫び声が飛び交っていた。


「チーフ! プレイヤーID:カイトのデータ整合性が完全に失われました! サーバー内の数値が文字化けし、コードオメガが彼の削除を拒否しています!」


「またあいつか!」

 チーフプログラマーの黒崎シュンが、歯噛みしながらモニターを叩く。壁抜けの次はダメージ重複か……。あいつ、わざと計算負荷が高い動作を選んで実行してやがる!」


 黒崎の背後から、開発ディレクターの神代レイジが冷徹な声を出した。


「シュン、落ち着け。……彼がやっているのは、単なる悪戯じゃない。この世界の物理法則という名のプログラムが、どれだけ脆弱かを証明するテストだ」


「ですがディレクター、このままではゲームの経済もランキングも崩壊します! 今すぐ彼をBANすべきだ!」


「……いや、必要ない。コードオメガが彼を特異点として学習し始めている。今ここで彼を消せば、AIは学習対象を失い、さらに大きなエラーを他の場所に生むだろう。……白石君、彼の配信を常時トップページに固定しろ」


「えっ!? いいんですか!?」

 コミュニティマネージャーの白石ミユが驚きで目を丸くする。


「彼にこの世界を壊しきれるか試させる。……そして、彼が最後に行き着く先を見届けるんだ。それが『システム・ブレイカー』の誕生であってもね」



 4.新たな検証の予感


 ボス部屋に残されたカイトは、自身のステータスに追加された未知の項目を弄んでいた。そこには、通常のスキルツリーとは別に、「脆弱性への干渉」という未解放の文字が刻まれていた。


「さて。ボスも倒したし、ステータスも壊れた。……でも、検証はまだ始まったばかりだ。再現率100%の壁抜け、倍率スタック。これらを組み合わせれば、もっと面白い場所へ行けるはずだ」


 カイトは配信画面に向け、不敵に言い放った。


「みんな、今日の配信はこれでおしまい……じゃない。これから、誰もが不可能だと言っている『レベル1での別大陸へのワープ』を検証しに行こうか」


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[名無しさん1]: まだやるのかよwww

[名無しさん2]: 同接2800突破! おい、もうすぐ3000人だぞ!

[名無しさん3]: 伝説回確定。カイト、お前がこのゲームの救世主か破壊神か、どっちかだ。

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「救世主なんてガラじゃない。僕はただ……この完璧な世界が、本当はどれほど脆いのかを見せつけたいだけだよ」


 カイトは崩壊したボス部屋を背に、再び壁の境界へと歩み寄った。

 彼の背後には、かつてないほど巨大なバズの波と、運営の重苦しい視線が重なっていた。

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