木枯らしと、琥珀色の帰り道
その風は、予告もなく街に降りてきた。
午後四時。買い物袋を下げてスーパーマーケットを出た秋穂の頬を、斬りつけるような風が撫でた。街路樹のイチョウが悲鳴を上げるように揺れ、乾いた葉がアスファルトの上をカラカラと転がっていく。
「……あぁ、木枯らしだ」
秋穂はコートの襟を立て、首を縮めた。つい数日前まで小春日和の穏やかさに甘えていたが、季節は容赦なく冬の扉を押し開けたらしい。
家路を急ぐ足元を、枯れ葉が追い越していく。どこか遠くで、誰かの家の戸がガタガタと震える音がした。この風が吹くたびに、世界から色彩が奪われ、景色がモノクロームへと削り取られていくような、独特の寂しさがある。
ふと、公園のベンチに座る人影が見えた。
幼なじみの透だった。彼はマフラーもせずに、手元の文庫本をじっと見つめている。
「こんな木枯らしの吹く中に、何してるの」
声をかけると、透は驚いたように顔を上げた。鼻の頭がほんのり赤い。
「……季節が、変わる瞬間を捕まえようと思って」
「相変わらず変なこと言うね。捕まえるどころか、風邪を引くだけだよ」
秋穂は苦笑いして、自分のバッグから予備のカイロを取り出し、彼の手に押し付けた。透は「ありがとう」と小さく笑い、凍えた指先を温める。
「木枯らしってさ、寂しいだけの風じゃない気がするんだ」
「どうして?」
「これが吹かないと、冬が来ない。冬が来ないと、次の春も準備を始められないだろ? 木を枯らすのは、また新しく芽吹くための整理整頓なんだよ」
透の言葉を聞きながら、秋穂は空を見上げた。
夕焼けが木枯らしに洗われて、吸い込まれるような深い琥珀色を呈している。冷たい風は確かに厳しいが、そのおかげで、遠くの街灯の灯りが以前よりずっと暖かく、愛おしいものに見え始めていた。
「帰ろう。今夜はシチューにするから」
「いいの?」
「一人で食べるより、その方が『整理整頓』が捗りそうだし」
二人は肩を並べて歩き出した。
背中を叩く強い風は、もうただ冷たいだけの風ではなかった。




