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木枯らしと、琥珀色の帰り道

掲載日:2025/12/30

 その風は、予告もなく街に降りてきた。


 午後四時。買い物袋を下げてスーパーマーケットを出た秋穂あきほの頬を、斬りつけるような風が撫でた。街路樹のイチョウが悲鳴を上げるように揺れ、乾いた葉がアスファルトの上をカラカラと転がっていく。


「……あぁ、木枯らしだ」


 秋穂はコートの襟を立て、首を縮めた。つい数日前まで小春日和こはるびよりの穏やかさに甘えていたが、季節は容赦なく冬の扉を押し開けたらしい。

 家路を急ぐ足元を、枯れ葉が追い越していく。どこか遠くで、誰かの家の戸がガタガタと震える音がした。この風が吹くたびに、世界から色彩が奪われ、景色がモノクロームへと削り取られていくような、独特の寂しさがある。


 ふと、公園のベンチに座る人影が見えた。

 幼なじみのとおるだった。彼はマフラーもせずに、手元の文庫本をじっと見つめている。


「こんな木枯らしの吹く中に、何してるの」


 声をかけると、透は驚いたように顔を上げた。鼻の頭がほんのり赤い。


「……季節が、変わる瞬間を捕まえようと思って」

「相変わらず変なこと言うね。捕まえるどころか、風邪を引くだけだよ」


 秋穂は苦笑いして、自分のバッグから予備のカイロを取り出し、彼の手に押し付けた。透は「ありがとう」と小さく笑い、凍えた指先を温める。


「木枯らしってさ、寂しいだけの風じゃない気がするんだ」

「どうして?」


「これが吹かないと、冬が来ない。冬が来ないと、次の春も準備を始められないだろ? 木を枯らすのは、また新しく芽吹くための整理整頓なんだよ」


 透の言葉を聞きながら、秋穂は空を見上げた。


 夕焼けが木枯らしに洗われて、吸い込まれるような深い琥珀色を呈している。冷たい風は確かに厳しいが、そのおかげで、遠くの街灯の灯りが以前よりずっと暖かく、愛おしいものに見え始めていた。


「帰ろう。今夜はシチューにするから」

「いいの?」


「一人で食べるより、その方が『整理整頓』が捗りそうだし」


 二人は肩を並べて歩き出した。

 背中を叩く強い風は、もうただ冷たいだけの風ではなかった。





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― 新着の感想 ―
情景描写が素敵。あったかいシチュー嬉しいですね。
幼馴染み、つまり実家は近いんだけど「一人で食べるより」と言っていると言う事は、今はふたりとも一人暮らしをしているのか、両親が早世したのか……………。両親との折り合いが悪い可能性もあるのかなあ? ちょっ…
 前半、木枯らしの吹く町の寒さの描写があまりにリアルで、屋内で拝見しているにもかかわらず、思わず身を縮めてしまいました。  後半は幼馴染の二人のやり取りに、少し独特の空気感があって、何だかとても素敵で…
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