終 その少女は笑う
まだ朝日は昇っておらずくらい。空をみると星がうっすらと光っていた。
馬に乗り草原を駆ける。久々にシオンに乗せてもらった乗馬は気持ちよかった。
館からずいぶん離れた丘の方へと案内された。
東の方角をみてまだ日は上がっていない。
シオンがいうには後10分すれば朝日が出てくるという。
「寒くないですか?」
シオンは水筒を用意しており、中から温かいお茶が出てきた。器をアリーシャに渡す。
「狩猟祭を思い出すわね。なんだか昔のことみたい」
「あの時は大変でしたね」
そのあとも大変だった。
「シオンを巻き込んでしまったわ」
「巻き込むなど言わないでください。私が勝手に首を突っ込んだのです」
あの後、アルバートがはぐらかしたとしてもシオンは彼に問い詰めていただろう。
「よかった」
突然の彼の感想にアリーシャは首を傾げた。
「最近避けられていると思い、嫌われたかなと思いました。でもお供をさせてくれたのでそこまでは嫌われていないとわかりました」
笑うシオンにアリーシャは首を横に振った。
自分がシオンを嫌うはずなどないだろう。
何を心配しているのだ。
そう言いたかったが、確かにここ最近シオンを避けていたのは事実である。
アリーシャは深くため息をついた。
ここで言わなければあとでずるずると引き伸ばしてしまうだろう。
「ねぇ、シオン。聞いて欲しいの」
はいとシオンは優しく頷いた。
大丈夫だ。自分に言い聞かせてアリーシャは続ける。
「私は過去のことがある。あなたの職業のこともある。きっとこれから大変なことはたくさんあると思うの」
でもねとアリーシャは続けて言う。
「私はあなたと一緒なら頑張れる気がする。きっと笑える日も何度か訪れると思うの」
だから、もう少し話を聞いて欲しい。アリーシャは願いながらシオンに話しかける。
今までシオンがアリーシャの話を無視したことがないとわかってても少し怖い。
シオンを見ると、少しだけ動揺しているのがわかる。
それでも最後まで聞きますと言わんばかりにこちらを見つめていた。
彼の不思議な右目をみて、このまま言ってしまえと口にした。
「私はあなたと一緒に生きたい。私、あなたのこと好きなの」
言ってしまった。
ここまで言ってしまったらもう後は受け入れてもらえるか、断られるかである。
断られればきっと立ち直れないだろう。
それでも言わないともっと後悔する。
シオンは少し動揺して目を動かした。しばらくして彼からの返事が届けられる。
「私も、あなたと一緒に生きたいです。アリーシャ。私と結婚してください」
結婚という、望んだ以上の応えが帰ってきてアリーシャは息をのむ。
目頭が熱くなり、ぽろぽろと涙があふれ出た。
アリーシャの涙にシオンは慌てた。アリーシャは大丈夫だと答えた。
悲しいわけではない。
嬉しいのだ。
東の方がすっと明るくなる。
同時にアリーシャは自分の頬が柔らかく動いた気がした。
きっと今、私は笑えているのだろう。
シオンは優しい表情でアリーシャを見つめた。
朝日に照らされているせいだろうか。
はじめてみる彼女の笑顔はとても眩しく煌めいていた。
(終わり)
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次からは設定メモと、番外編です。
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