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【完結】笑わない悪女は最後に笑う  作者: ariya


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55 ウェルノヴァ伯爵家

 アリーシャは以前シオンと会話した内容をアルバートに話す。

 その話を聞き、アルバートはアリーシャの予想があたっていると考えた。


「シオンは医者なんだ。貴族が治療を受けたと周りから知られたくない時、シオンの家を利用することがある。例えば………伝染病とか」


 国が認定している治癒魔法使いや医者の場合、公的な記録が残ってしまう。多額の金銭を渡して口外せず診てもらうこともある。

 だが、彼らが匙を投げた後、それでも何とか治療ができないかとシャーリーストーン家を頼ることがあった。


「シオンがそういったということはコレット嬢を看取った可能性がある」


 ウェルノヴァ伯爵自身から情報を引き出した方が早いだろうとアルバートは語った。


「え、まさか殴り込むの?」

「まさか、そんな野蛮なことはしない。貴族らしく穏便に、会話の場を設けるだけだ」


 最後の言葉がとっても引っかかる。

 彼も友人のシオンがいなくなって動揺しているはずだ。彼も自分が呪いに関わらせたからと考えているだろう。


「ねぇ、その場に私も同席しちゃだめかしら。もしかしたら伯爵家にシオンが捕らえられているかもしれない」


 お願いとアリーシャは頼み込んだ。


 後日、アルバートはウェルノヴァ伯爵家へ訪れる手配をした。その時にアリーシャも、ドロシーも同行することになった。


「ウェルノヴァ伯爵邸の見取り図だ。ドロシー、しっかりみておけ」


 馬車の移動中にアルバートは先日手に入れた図面をドロシーにみせた。ドロシーは真剣に図面を記憶にとどめた。

 何故手に入れられたかは不明である。


「あと、ドロシー。少しそこの店で止まろうと思うが、アリーシャを化粧で化けさせられるか?」


 何を言っているのかアリーシャは理解できなかった。


「さすがに、花姫が対抗中の花姫に無断で実家に訪問するのは変だろう」


 アルバートの言葉にドロシーはすぐに察した。


「わかりました。何か希望はありますか? 設定があれば、そのようにセットします」

「そうだな。俺と婚約予定の令嬢。家は………クロックベル傘下にあるアワグラス子爵家にしておくか」


 はぁ?とアリーシャは立ち上がった。馬車内だから危ないとアルバートに注意される。


「何で私が、アルバート様の婚約者に」

「アリーシャがウェルノヴァ伯爵邸を訪れたと噂になれば他の花姫に何て言われる。言われてもいいのなら構わないが………それとも王宮で留守番するか?」


 嫌みの多いコレットとクリスのことを思い出し、アリーシャはうぐぅと唇をかんだ。

 こんな奴と演技でも婚約者になるなんて嫌だ。だけど、シオンが捕まっているかもしれないと考えると行きたい。


「名前はどうしましょうか?」


 二人の話に割り込むドロシーの質問はどうでもいいことである。


「考えるのが面倒だから、アンジェリカでいいだろう」


 潜入できれば何でもいいアルバートは後は適当にドロシーに任せた。


 ウェルノヴァ伯爵邸にたどり着くと、当主が自ら出迎えてくれた。


「まさか、伯爵殿に迎えていただけるとは嬉しいです」


 アルバートは社交辞令を述べ、外面のよい笑顔をみせる。


「いえいえ、未来の侯爵家が参られるのです。部屋の奥でじっとするわけにはいきませんよ。おっと、そちらは」


 アルバートの後に馬車から降りた女性をみて伯爵は首を傾げる。

 アリーシャが普段身に着けないフリルが多めのドレス、色合いは白をベースに、赤のフリルとレースでアクセントをつけていた。顔を半分隠すように赤い椿の飾りをつけた帽子を被せている。髪型も普段はかっちりと結い上げてシニョンでまとめていた。化粧で顔の輪郭がいつもより違うようにみえる。

 服と髪型、化粧でここまで化けられるとは思いもしなかった。アリーシャはドロシーの技術に驚いてしまった。

 後ろに控えるドロシーも変動をしている。そばかすをつけて、普段よりも目立たない顔立ちにしていた。群衆の中に紛れ込んだら見つかるのが困難だろう。


「まだ正式に発表していないのですが、私の婚約者、アンジェリカです」

「伯爵様、お会いできて光栄です」


 スカートの裾を掴み、カーテシーを披露する。本当は笑顔をみせれればいいのだが、頬が強張って作れなかった。


「おや、どうやら緊張しているようだ」


 不愛想なアリーシャにアルバートはそっとフォローを入れる。


「あはは、美しい令嬢だ。それにしても銀色の髪、まるでカメリアの花姫と同じですな」


 何気ない一言にアリーシャはどきりとしてしまう。ばれてしまったのではないかと不安になる。

 ぐいっとアルバートはアリーシャの腰に手をまわし、自分の方へ近づけた。


「ええ、祖母も銀髪、母も銀髪………どうやら見事な銀髪に惹かれるようです」


 ぞわっとアリーシャは鳥肌がたった。もしかしてこの一族は銀髪が好きなのか。


「ははは、三世代そろって同じものに惹かれるとは。良いではないですか。そういうこともあります」


 伯爵は愉快そうに笑って屋敷の中へと案内した。


「銀髪が好きなの?」


 アリーシャはぼそっと質問した。


「銀髪は嫌いだ」


 だから安心しろとアルバートは付け加える。ほっとしたが、ちょっと腹が立った。


 はじめは他愛もない会話であった。先日の侯爵の急病へのお見舞いを受け、アルバートは今後の自分の身の振り方に関して不安を感じているという。


「やぁ、侯爵代理殿は随分と博識で事業の展開も良く、御父上がよく褒めておられていたのに。こうして相談に来るとは意外でした」

「今までは父が後ろにいたからできていたのですよ」


 今のアルバートは父の突然の急病で、慌てふためく侯爵家の跡取りという設定のようだ。

 差し出された紅茶に自身の姿をうつし、憂いのこもったため息を吐く。とんでもなく色っぽいのが腹立つ。


「恥ずかしい話です。ですが、家門の者に相談するのも逆に不安を与えてしまうのではないかと」

「わかりますよ。私も父の跡を継いだ時はそうでした。侯爵代理殿はまだお若いので不安は私の時以上でしょう」


 ウェルノヴァ伯爵はうんうんと頷いた。


「こんな話をして伯爵にご迷惑かなと思いましたがそういっていただきありがたいです」

「なぁに、こういう時は周りの大人を頼るべきです」

「私も成人して大人なのですが」

「私からみたらまだ子供ですよ。おっと、未来の侯爵に失礼でしたな」


 全く疑われていない。喜ぶべきか微妙な気分である。


「しかし、侯爵代理にはこのように美しい令嬢がいるではないですか。ちなみにお父様にはどこまで話が進んでいたのですかな」

「一度挨拶をしたっきりです。婚約式をいつにするか決めかね、せめて花姫制度が終わってひと段落ついてからがよいのではと話していた頃でした」

「なんと。私としては早めに発表するのがいいと思いますよ。時間がたてばたつほど不安になるというものです。侯爵代理殿は淑女に人気がありますからね。彼女の為にどしっと土台を作ってあげないと」


 伯爵はにこっとアリーシャに対して笑顔を向けた。アリーシャは困った表情を浮かべ俯いた。


「随分と内気な令嬢のようだ」

「申し訳ありません」


 アリーシャは頭を下げた。


「自信がないのでしょう。大丈夫ですよ。あなたは美しい。笑えばだれもが見惚れることでしょう」


 嘘だ。


 アリーシャは視線を下に向けたまま伯爵のうわべの言葉を批判した。


 回帰前のアリーシャはもっと笑う方であった。しかし、笑っても気持ち悪いと言われ、媚を売っているのだと言われ、次第に笑うことがなくなった。

 それを言った人々の中にコレットもいた。コレットを取り巻く伯爵家所縁の者もいた。


 ぎゅっと帽子を握りしめる。


「アンジェリカ様」


 後ろに控えていたドロシーはぼそっとアリーシャに耳打ちをする。アリーシャはすくっと立ち上がった。


「申し訳ありません。その、少し化粧室に行ってもいいでしょうか?」


 手に持った帽子で自分の顔を半分隠す。これで表情がみえないので、恥ずかしがっているようにみえるだろう。

 あっさりと部屋から出られて、使用人に簡単に道を教えてもらった。


「ありがとうございます。私と侍女だけで大丈夫ですので」


 案内に関しては遠慮した。そう複雑な道ではなさそうだからと。

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