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【完結】笑わない悪女は最後に笑う  作者: ariya


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48 侯爵家の悪夢

「そういえば、最近アリアの様子はどうだ?」


 クロックベル侯爵家での食事でアルバートはぴたっと動作を止めた。


「はじめの頃に比べだいぶ落ち着きました。まだ荒はありますが、社交界にでも問題はない程と考えています」

「そうか。それは喜ばしいことだ」


 はは、と闊達に笑う父にアルバートはため息を吐いた。全く無関心ではないのならどうしてはじめから彼女を支援しなかったのか。


「しかし、お前がここまで面倒見がいいとは思わなかったぞ。はじめあんな田舎娘は山に返すべきといっていたではないか」


 アルバートはアリーシャを侯爵家に入れるのを拒否していた。

 アリーシャ自身にも家門の恥になるから出ていけと冷たく言い放った。世間しらずのアリーシャが王宮にあがっても苦労するのが目に見えている。帰る家があるというのであれば帰るべきだと思った。へたに優しくして懐かれても困るし。

 そのせいでアリーシャからの第一印象は最悪だ。今も最悪の部類だろう。


「侯爵家の跡取りとして責任は持つべきと思いました」


 父がそうしたのであれば仕方ない。その上で自分は動く必要がある。


「いやはや、我が家の未来は安泰だ。そうだ。別館へ戻る前にアリア様へ挨拶をしなさい。花姫として優秀だったアリア様だ」


 父との夕食が終わったあとアルバートは酷く疲れた。父に言われ、使用人が例の肖像画が並ぶ廊下へと案内する。

 代り映えのない先祖代々の肖像画、最後の方にアリアの肖像画があった。

 大叔母も花姫だったが、それほど優秀ではなかったようだ。修道院にいってから音信途絶えてしまい彼女がどんな顔立ちだったか肖像画が残っていなかった。

 久々に通りアリアの肖像画をみてアルバートは思わず後ずさった。


「アルバート様?」


 どうかなさいましたかと使用人の声にアルバートは大丈夫だと答える。

 別館に戻る。冷や汗と動悸が酷かった。

 エヴァの部屋にまで押し入ってノックをする。すでに就寝中であったエヴァは眠気眼で扉を開けた。


「なんだ、なんだ。夜這いか。メデアの子に手を出せばメデアが黙っておらんぞ」


 軽口を叩く巫女を引っ張り出し、アルバートはみなが眠り静まり返った本館へと案内した。行く先は例の肖像画の通りである。


「これを、お前ならどうみる」


 アリアの肖像画までたどり着き、アルバートはエヴァに質問する。エヴァはすっと真顔になり、アリアの目元を指さした。

 アルバートは目の方へ灯りをともしじっくりとみると、今まで気づかなかったが目の陰りと光になっている部分が実は小さな文字であると知る。その内容をみて吐き気を覚えた。


「ティティスの呪いだ」


 こんな使い方もあるのかとエヴァは関心した。ティティスの呪いは増幅する。回廊を通る為にアリアの肖像画で足を止め眺める。それを何度も繰り返すと呪いは少しずつ自身の内に溜っていく。

 この肖像画を見て怖いと思ったのはそのせいだったのか。


 どうして今まで気づかなかった。


 王宮内にティティスの呪いをばらまいたのがアリアだったら、嫁ぎ先の侯爵家で何も残さないとは言い切れない。


 アルバートはがしっとアリアの肖像画を掴んだ。無造作に外したので固定具の跡が残っている。


「これも、解体してくれ」


 アルバートはエヴァに肖像画を差し出した。


   ◇   ◇   ◇


 これは昔のこと、まだ現代のクロックベル侯爵が生まれる前のことであった。


「アリア様」

「あなたは……」


 入院リハビリを続けていたアリアの元に同年代の紳士が訪れた。アリアの瞳は疲労感でいっぱいであった。


「私はジョアン・クロックベルと言います。先日父より侯爵位を譲り受けました」


 クロックベル、と名を紡ぐ。


「アリア様と同時に花姫だった妹より話を聞いておりました。アリア様は大層聡明な方で、妃に一番ふさわしかったと。今回の件は残念でございました」

「もう、過ぎたことです。こんな私に何の用でしょうか」


 紳士は片膝をつきアリアに見つめた。


「アリア様、どうか私の妻になっていただきたい」


 彼は頬を紅潮させアリアに告白をした。


「私は以前からアリア様をお見かけしてずっとあなたのことを敬愛しておりました」

「私の足はこの通りです。精神的にも不安定で、侯爵夫人は務まりません」

「そんなこと気にしなくてよいのです。私はアリア様さえ傍にいれば……どうか、あなたに恋焦がれる男を見ていただけないでしょうか。もちろん急な話ですので、アリア様が宜しければ交際をさせてほしいです」


 アリアはとても疲れていた。

 この病院に来る前は花姫の辞退の為に荷物の整理をしながら、あちこちに呪いをまいていたのだから。呪いをまくのはかなり精神力が必要だった。ただ、王太子・花姫が憎らしく、あの時の笑い声を思い出し彼女は準備した呪いの最後までまくことに成功した。すぐにはばれないように隠匿の魔法もかけていたので疲労感は想像以上のものであった。


「そういえば、あなたの妹は……」

「はい、カメリアの花姫、ティナ・クロックベルです」


 その時思い出したのはあのダイヤモンドリリーの庭のお茶会で笑う女の声。ああ、確かに彼女もいたな。


「わかりました。このような私で宜しければ」


 アリアはそう笑い、ジョアンの手を取った。喜びのあまりジョアンはアリアを抱きしめる。男の背に身を預けながらアリアは新しい恋などとは別のことを考えた。


 王宮でやることを終わらせて、後はただ眺めるだけにしようと思った。だが、ここでまるでねぎを背負ったかものようにジョアンがやってきてくれた。


 ここでクロックベル侯爵家を不幸にするのも悪くない。


 彼女の心は人を呪い続けなければ身が持たなかった。もう自分にはそれしか残されていなかった。

 これがクロックベルの悪夢の始まりだった。

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